太宰はこの「愛と美について」で、堅物の長男、自信家の長女、俗物の次男、ナルシストの次女、幼い末弟という性格がバラバラな五人兄妹にリレー形式で物語を語らせることで小説を展開させるというスタイルを試みました。ですが、その興味深い試みもここでは上手く機能されずに終ってしまっています。そのリベンジのつもりか、太宰は「愛と美について」と同じスタイルを、同じ登場人物を使ってこの短編集の表題作「ろまん灯篭」で再び試みているのです。ここでの五人兄妹による連作には、それぞれの書き手の性格がユーモアたっぷりに反映され、一つの物語としては支離滅裂なのですが、そこに作品の面白さが生まれ、この試みの成果が出ています。そして五人兄妹を支える形で、彼らの母、祖父母が上手く機能し、作品をより面白いものにしています。
このようにこの二作には強いつながりがあり、「愛と美について」と「ろまん灯篭」をあわせて読むことで(この文庫には「愛と美について」の直後に「ろまん灯篭」が収められています。ニクイ演出です)、この「ろまん灯篭」という「隠れた名作」をより深く楽しむ事が出来ると私は思うのです。この作品集にはこの二作の他に、後に「お伽草紙」で完成を見る太宰の翻案小説のハシリと言える「女の決闘」などが収められています。