エリート弁護士たちの闇
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ヤメ検といわれる元検察官のエリート弁護士たちの闇を描いた内容。
「反転」の田中森一氏を中心に朝鮮総連ビル事件や吉本興業中田カウス事件、防衛商社山田洋行事件など比較的最近に世間を賑わした事件
を題材に大きな事件に必ず関わっている大物ヤメ検たちの実態を暴いている。
詐欺を働く者、エリート故に世間知らずで地上げ屋に騙される者、怪しいリスクコンサルティング会社と密接な関係を持つ者、関西独特の
密接なヤメネットワークなどなかなか知ることのできないエリート弁護士たちの姿を垣間見ることができる。
なかでも、どんなに賢く法律知識を持ったエリートであろうとも、強いバイタリティを持つ闇の紳士・権力者たちに魅了・翻弄させられて
いる姿に、何か人間の本質が見えた気がする。
意外と騙されやすい司法エリートの限界
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バブル崩壊後、様々な経済事件で政官財の住人が逮捕され、司直の手に裁かれた。しかしその多くが法廷でも真相解明に至らず、消化不良気味の結末を迎えている。そこには「ヤメ検(検察OB)弁護士」が必ず介在しているからだという。彼らの論理と行動を詳細に解き明かした佳作である。
検察の捜査手法を知り尽くしたヤメ検が闇社会の住人を堅固に守る。その一方で、海千山千の怪人物から巧みに利用されている。かつて人を疑うことを生業としていたヤメ検が、実は意外と騙されやすく、怪しげな人物に籠絡され、やがて闇社会の住人と同化し、道を踏み外していくことに「エリート検事の限界がある」と著者は説く。
ムラ社会と評されるほど狭い検察の世界で、有罪に持ち込みたい検事と執行猶予を勝ち取りたいヤメ検が、先輩・後輩という関係の中、妥協を重ねていることが本書で浮かび上がる。結果、事件の真相はうやむやになる。この構図で笑いが止まらないのは、罪状に対して刑罰の軽くなる闇社会の住人であろう。
実態の見えにくいヤメ検にこの本が当てた光は、異彩を放って読者の前に反射する。昨今の検察と論理を知る上でも極めて価値が高い。
魚住昭「特捜検察の闇」、田中森一「反転 闇社会の守護神と呼ばれて」と併読すれば、検察、ヤメ検、そして司法に対する理解が一気に深まるだろう。
司法に巣喰うヤメ検弁護士の存在感。
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先の田中森一著「反転」に次いで、本書で大物ヤメ検弁護士達の生態を垣間見た。東大閥等の法務省キャリア、特捜部等の花形検事、華はなくても検察OBを最大限売りのタイプ等々、或いは東大/法卒等の「赤レンガ派」と「現場捜査派」にも分かれる。大阪高検中心の関西検察が以前は独立王国で、京大・阪大卒が幅をきかせるが土肥孝治氏を最後に今では京大・阪大閥に検事総長ポストは難しいらしい。
トップ序列は、検事総長、東京高検検事長、法務省事務次官、次いで最高検次長と同格の大阪高検検事長と。レースの勝者は、例えば司法修習7期の岡村泰孝氏、吉永祐介氏、10期の土肥孝治氏、根来泰周氏、13期の北島敬介氏、堀田力氏等々とすると、朝鮮総聯絡みの「緒方重威」は早大/法卒の司法修習12期、競争の狭間に沈んだ。ただ法務省営繕課長時代の人脈拡大が鍵だ。 山田洋行法律顧問は豊嶋秀直氏(中大/法卒)、宮崎前専務の代理人は五木田彬氏、守屋前次官の代理人は山田宰氏だ。 和歌山談合汚職の木村前知事の代理人は大野敢氏、京大/法卒の赤レンガ派法務官僚だ。 福島県知事汚職の佐藤前知事兄弟の代理人は宗像紀夫氏、中大/法卒の現場捜査派エリートだ。 脇の甘さでは、東京高検検事長の則定衛氏(東大/法卒)は検事総長目前に女スキャンダルで退職、ヤメ検に。 関西トップは土肥孝治氏で京大/法卒の元検事総長。荒川洋二氏(京大/法卒)、逢坂貞夫氏(阪大/法卒)との三巨頭時代から、最近では大阪府裏金、船場吉兆、大林組談合、中田カウスで有名な加藤駿亮氏(早大/法卒)がポスト土肥と言われる。 以上のヤメ検弁護士先生におかれては、悪クライアントに利用されることなく、カネにさもしくならず、法曹界を目指した当初を思い出して、正義に燃えた弁護士として今後のご活躍をお祈りしたい。
知識がなくても読めますよ。
★★★★☆
各章読み切りになっていて読みやすいです。
最近の話題(山田洋行とか中田カウスの事件とか)が多いので、イメージしやすいのもポイント高いです。
なので、たくさん知らない人(タイトルの「ヤメ検」と呼ばれる人々)の名前が出てきますが、全く気にせずに読めます。
文章も読みやすいです。
著者の考えに偏りがないからでしょう。
事件を客観的にとらえて、どちらかの側に付くことはありません。
読み終えて、金や利権が絡む事件は、まさにミステリーだと感じました。
相手を罪に陥れようとする駆け引きがスゴイ。
絶対こういう裏取引に巻き込まれないようにしようと心に誓いました。
ヤメ検たちの実相を描いた第一級の司法ノンフィクション
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本書は、世上を賑わせた事件を題材に、検察OBの弁護士(その通称が「ヤメ検」である)のなかでも大物といわれる刑事弁護士たちの姿(実態)や隠れた事件の構図を描いたものである。(なお、本書の元は「月刊現代」連載の諸稿。)ある者は「不正との同化」(292頁)への道を辿り、ある者は「権力の暴走を食い止める役割」(140頁)に拘り続ける。朝鮮総聯中央本部ビル詐欺事件(緒方重威元公安調査庁長官対対北朝鮮で強硬姿勢の官邸)、軍需専門商社山田洋行をめぐる防衛省贈収賄事件(山田正志対宮崎元伸)、和歌山県官製談合・汚職事件(関西検察の独特の仲間意識)、福島県知事汚職事件(宗像紀夫元名古屋高検検事長の矜持)、則定衛スキャンダル事件(リスクコントロール社寺尾文孝との関係)、吉本興業中田カウス事件(裏ガネ問題と加納駿亮元福岡高検検事長)、「闇社会の守護神」田中森一元弁護士へのインタビューなどなど、どれもが読み応えのある第一級のルポルタージュであり、掛値なく一読の価値あり。