患者から学ぶための方法
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治療構造論の基本的発想。「クライエントが面接場面で体験し、言葉にすることは、面接場面という設定に対する反応である。」よくよく考えてみれば当たり前のことなのに、それに気付かないまま善意の押し売りをしているセラピストがいかに多いことか。セラピストがよかれと思ってやっていることでも、クライエントの受け取り方次第で、有り難いどころか大きなお世話だってこともある。セラピストの最大の仕事は、面接場面についてクライエントが何を体験しているか、何をセラピストに訴えようとしているかに耳を澄ますこと。どんな些細な声も聞き洩らさないように、聞き耳を立てること。そのためには、一貫した面接場面の設定が不可欠である。
小此木圭吾の継承者狩野力八郎は本書で、治療構造論の発想を多種多様な治療設定に押し及ぼし考えぬいている。その射程は、精神分析的心理療法の枠組みを大きく超えている。家族療法、集団療法、入院治療、はてはコンサルテーション・リエゾン医療にまで及ぶ。こうして、ものすごく人間に配慮した医療ができあがっていく。現場に即した実践的な精神医療が組みあがる。理屈っぽくて堅苦しい語り口の背後には、治療への凄い情熱がある。読者はそれに、目を見張る。
「精神分析的セラピストは1対1の面接室に閉じこもって現場のことを考えない」なんて批判がある。そんなことはないと本書は語る。逆にそう言う批判者に本書は語りかける。「現場の要請に埋もれて、あなたはクライエントの声をちゃんと聞いているの。クライエントの体験に沿うにはどうしたらいいか、その方法をちゃんと考えているの?」