真の孤独の意味
★★★★★
離婚により孤独となった男。孤独ゆえ異界へ逝ってしまった女ケイ。
ケイの磁力ゆえ、異界へと誘われる。そこでは幼き頃、異界へ旅立った父母との交流があった。
あの時の父母。対称的なのはケイ、女の性の底に鬼が住む。
男はどうなるのだろうか。
単に幽霊小説という見方が出来るのかもしれないが、異界を通し人の根底である孤独を
浮かび上がらせている数少ない小説と感じました。
親を亡くした方なら涙なしでは見られないのでは
★★★★★
離婚したばかりの中年脚本家のある夏の物語。12歳のときに交通事故死した両親が現れる。
両親のアパートを何度となく訪問し、自分より年下の両親とのつかの間の一家団欒を楽しむ
が... 年老いた親を持つ方、すでに死別した方なら、涙なしには見られないかも。
もうひとつ、同じマンションに住む中年女性とのラブストーリーがこれに絡む。両者は無関係に見えるが実は...
DVDを先に見たが、小説の方が自然。言葉を使って説明できない映像化の難しさを感じさせられた。ただし、DVD版には秋吉久美子のなんとも言えない美しさという代え難い魅力がある。どちらもおすすめ!
失って、得て、そしてまた
★★★★☆
誰かからの愛情に飢えた時、とつぜん惜しみなく降り注がれる愛情に出会ったら、人はどうするだろうか。
本作の主人公は離婚直後、静か過ぎるマンションに一人生活。
しかも仕事のパートナーが自分の奥さんにほれていたため、彼も失った。
孤独な主人公が出会ったのは、死んだはずの父母、そして同じマンションに住む若い恋人。
自分が失った「愛」が、親子愛として、そして恋愛として目の前に現れる。
おもしろいのは、こんな突然すぎる「愛の登場」に対して、主人公が疑問より先に彼らにすがるところ。
人は孤独に打ちのめされている時、理屈よりもまず温もりを必要とするのだろうか。
彼は異人たちとの出会いで、現実で乾いた心を少しだけ取り戻す。
失って、得て、また失って、前を向く。
静かで、夏なのにしんしんとする作品。
過ぎ去ったものの力
★★★★★
本人以外にはどうでもいいような,過ぎ去った人の,過ぎ去った一言,仕草,声の調子.そうした幻のようなもののもつ本質的な力が,現実でもなく夢でもない浅草で,漠然として実は危機的な中年の主人公を再生させる.いつのまにか現実でヤスリ掛けされた人が,何によって生きかえるのか,を追体験できます.
この小説には,解説本があります.小説そのものに劣らぬ河合隼雄『中年クライシス』です.どちらも感動的な本で,私にとっては二冊で纏めて一冊です.
切なくて、怖くて・・・
★★★☆☆
父は39歳、母は35歳でこの世を去った。36年前の突然の別れ。
今目の前にいる2人に近づくことがどんなに危険なことか、分かって
いても自分を止められない。そこにいるのは紛れもなく、自分を愛して
くれた人たちだから。会うことをやめなければと思いながら、会わずには
いられない男の心が痛いほどよく分かる。きっと、ずっと抱えてきた心の
すき間を埋めたかったのだ。もう一度、親の愛情を体全体で受け止めた
かったのだ。いつかは別れなければならないのに。そのことがとても
切ない。男と恋人ケイとの関係も、ホロリとさせられるものがあった。
最後はちょっと怖かったが・・・。