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南部九戸落城

価格: ¥4,898
カテゴリ: 単行本
ブランド: 毎日社聞社
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高橋版とは正反対の、生々しく物悲しくしかし強く描かれた、女性と子供たちを描いた、もうひとつの”九戸の乱” ★★★★★
 高橋克彦版”九戸の乱”「天を衝く」で、九戸政実と九戸党への思いが一気に高まっている時、父から教えてもらった作品。父は団塊の世代で還暦を越えているが、まだ高橋版がなかった時、一昔前の世代は、この渡辺喜恵子の本で、九戸の乱を“読んだ“のだという。

 すでに廃版、文庫化もされていない、ということで、最寄りの図書館で探したら、書庫の中に眠っていたのをようやく発見し、さっそく読んでみた。

 う〜ん。面白い!!高橋版は、まさに男の戦国読み物!と言った感が強いのに対して、こちらは、その対極、女性の視点から、艶やかで、しかしイキイキと、九戸の乱周辺の武家の女性と庶民を描いていて、とても新鮮だった。しかも、どうしてか面白くて気が付くと読み返してしまっている。

 中心人物は、鶴の方/小鶴であろうか。三戸の土民の出でありながら、南部春政の目に留まり、幼くして謎の死を遂げた(暗殺説あり)南部春継の母親となった女性。土民からお城に上がり、跡継ぎのお腹さまとなってから、幼くしてわが子を殺され尼となり、九戸の乱後、盛岡のお寺で老尼として、昔を回想するまでが描かれている。
 それらを挟み、九戸の地域の子供たちと薩天和尚、大浦為信とその母と妹、九戸政実の娘の最期、九戸実親とその妻二の姫の笛合わせ...などなどが、遠野物語のようなどこか薄気味悪く物悲しい地域伝承を織り交ぜながら、描いてある。しかし決して湿っぽくはなく、壮絶な最期の中にも、武士から土民までがそれぞれの思いで、九戸の乱を生き抜こうとしていたのが、伝わってくる作品である。
 
 憧れていたお城の殿様は、思い描いていた若い美青年ではなく、しわだらけの爺様だった。お城に上がって、絶望の日々を送っているところを、美青年ぞろいの九戸兄弟を目にし、その中に夢見ていた“若様”にそっくりな九戸弥五郎(後の中野康実)を見つけ、落ちてはならぬ恋に落ちてしまう。しかし、時は戦国、親兄弟も簡単には信用ならぬ時代、弥五郎もそう簡単に、小鶴を想ってはくれなかった...
 九戸兄弟は、全員南部きっての美男兄弟として描かれており、楽の合わせをする場面もあり、九戸党ファンにはたまらないサービス場面である。政実は幼いころ、春政の寵児であったのを、小鶴が後に寵愛を奪い、そのことに弟の弥五郎が嫉妬した、とある。また、政実の妻や娘の妙姫の最期、それらを何とか助けようと奮闘した村の子供たちも、イキイキとしかし悲しく、壮絶に描かれており、それらを全て見届けたかのように、小鶴が回想する。

 高橋版は勇壮で熱い”九戸の乱”であったが、渡辺版は、生々しく艶めいて物悲しくも、イキイキと描かれたもう一つの”九戸の乱”である。九戸党ファンには、高橋版と並んで一読することをお勧めする。