ヴィリエ・リラダンの短篇選
★★★☆☆
収録作は以下のとおり。
「ヴィルジニとポオル」 訳者:鈴木信太郎
「ビヤヤンフィラアトルの姉妹」 訳者:鈴木信太郎
「ヴェエラ」 訳者:鈴木信太郎
「アントニィ」 訳者:鈴木信太郎
「感傷主義」 訳者:辰野隆
「暗い話話手は尚暗く」 訳者:伊吹武彦
「イザボー女王」 訳者:伊吹武彦
「民衆の声」 訳者:辰野隆
「断頭台の秘密」 訳者:渡辺一夫
「ハルリドンヒル博士の雄々しき行ひ」訳者:渡辺一夫
「美しきアルディヤヌの秘密」 訳者:渡辺一夫
「蛮人航海者」 訳者:渡辺一夫
「人こそ知らね」 訳者:伊吹武彦
「夢大尽」 訳者:伊吹武彦
今から考えると豪華な翻訳陣だなぁと感嘆。
とはいえ、岩波文庫の場合「未来のイヴ」も渡辺一夫氏により訳出されてるが、いかんせんこの本と同じぐらい古いので、版を改めるなり新訳するなりしたほうがいいと思う。
21世紀を過ぎた今、この精神をこそ…
★★★★★
21世紀を過ぎた時期に、再びこの本を書店で見かけた時は唸った。ほとんど時代錯誤のようにさえ思えたからだが、3月程で忘れ去られ、或いは中古ブックストアの棚の肥やしに流れ着く雑本の氾濫するさ中に、l'isle-adamのこの2冊は重苦しいほど絢爛な光を放っているように感じられる。
l'isle-adamはかねてより齋藤磯雄の名訳が古典とされているが、こればかりは読者各々の好みによるだろう。この岩波に収められた“残酷物語”数編にせよ、訳者は辰野隆はじめ渡邊一夫、鈴木信太郎、伊吹武彦といった仏文学翻訳の名手中の名手が勢揃いし、まさに各氏が自身の持味を発揮した、渾身の翻訳になっている。
冒頭“ヴィルジニとポオル”から“アントニィ”への流れは見事というほかない。とくに前者の書き出しの美しさは、齋藤、後の中井英夫訳を含めても至高のものだろう。読んでいる最中は時が止まり、水際立っているように感じられるのがl'isle-adamであり、鈴木氏の卓抜な日本語訳の力だ。
女性の持ち備えるエロティシスムやナルシスムを包み込んだうえで、それと同化するのではなく、優しく居りつつ突き放す恋人の男の側からの思想の提示“人こそ知らね”(伊吹訳が光る)、恋人である男女の会話そのものが現実性を持ち得ないほどにまで高められた芸術感の観念性が“業”に至る“感傷主義”、l'isle-adam自身の生い立ちを踏まえると痛々しさと共に、結果自身のあまりに高尚かつ誇大で純粋な価値観を精華している“夢大室”なども読み逃さないで欲しい。