本書だけで渡辺淳一の名前は現代文学史に残す価値がある。
★★★★★
名作である。本書だけで渡辺淳一の名前は現代文学史に残す価値がある。
明治時代に生きた荻野吟子の生涯を書いた小説であり、著者の女性を描く描写が冴えている。
男尊女卑著しい時代に、女医一号となった苦闘は、抑制の効いた筆で如何なく書かれている。
無理解な世間に伍していく力は目をみはる程の強さ。
明治が産んだ女傑と片付けるにはもったいない。
本書から多くの事柄を学ぶことが出来る。
苦闘の前半史から栄光、そして不遇の後半史。後作の『遠き落日』の骨格ともいうべき作品。
読んで良かった。
人間の一生を考えさせられる
★★★★★
日本で初めての女医で、日本で初めての女性啓蒙活動家である荻野吟子。しかし、私もこの本を読むまで彼女の事を知りませんでした。津田塾の創設者「津田梅子」、東京女子医大の創設者「吉岡弥生」、共立学園の創設者のひとり「鳩山春子」これらの女性達と同じかそれ以上の実績を残している荻野吟子が何故、後世に名を残せていないかというと、それは彼女の結婚に原因があります。詳しくは本書を読んでのお楽しみですが…。後世の歴史を知っている我々にとっては非常に惜しいことに感じますが、彼女にとっては一番幸せな時期だったのかもしれません。本書を読んで荻野吟子が近代日本における女性の地位向上に果たした多大なる実績を実感して頂きたいと思います。
素晴らしい
★★★★☆
私はこの本を実話とは知らずに読みました。何人かの方がコメントを書いているように、渡辺淳一さんの今までの作品とは少し違った感じの内容です。明治初期、一人の淋病になった女性が、女性を救うべく医師と言う仕事を初めてめざします。数々の迫害や、厳しい女性としての現実、それを貫き通してこそなれた女医はただただ素晴らしいの一言です。彼女が医師をめざしていなければ、その先も女医誕生はなかったかもしれません。意志の強さに感動しました。
女医の誕生
★★★★★
日本初の女医、荻野吟子の小説です。
吟子が女医を志し、数多の苦難を乗り越え夢を実現する辺りは読んでいて痛快でした。明治時代の男尊女卑、理解のなさに腹が立ちつつ、そういった差別に果敢に挑み続けた吟子の偉業には心から畏敬の念を抱きます。
ただ、開業し社会地位も認められた中盤から、キリスト教に帰依していく後半部分は、読んでいて辛かったです。今まで築いてきたものを全て捨ててまで飛び込んだ道だったのに、結局吟子が得たものとはいったいなんだったのだろう。
彼女の波乱の生涯と残した功績はもっと認められるべきだと思います。ドラマ化しても十分興味を持たれる題材ではないでしょうか。
わが国初の女性医師
★★★★★
日本初の国が認めた女性医師「荻野吟子」の物語。
19の時夫から業病(性病)を移され、子供の産めない体になり、離婚したところから彼女の第二の人生は始まる。世間に避けずまれ、家族にも理解されず、当時考えられていた女性としての幸せを全て捨てながらも勉学に励み、34の時ついには医者になる。しかしこのときが彼女の人生のピークだったのか・・・
その後医者として成功し、社会的地位を高め、女性の地位の向上を目指す運動をし、キリスト教に帰依するまでは良かった。しかし彼女には何かが足りなかった。それは妻であり母であるという当時の女性の多くが手に入れた幸せだった。
その彼女が40のとき周囲の反対を押し切り自分よりも13若い彼女を慕う情熱あふれる学生と結婚。数年後、理想に燃える夫に付き従い東京での成功を全て捨て、北海道の開拓に向かう。
長きに渡る過酷な生活。結局夫の理想は挫折、彼女は札幌に向かい医師としての生活を再開しようとする。だがそこで待っていたのは、もうすでに「彼女の医者としての知識、技術は時代遅れ」と言う過酷な現実だった。
失意の彼女にさらなる不幸が襲ってくる。夫が病に倒れたのだ。自分が医者であることも忘れ彼女は「何とか助けてださい」と他の医師に救いを求める。そこにはかつての吟子の姿はない。一人の老いた弱い女の姿があるだけだった。
夫は死に、彼女も失意のうちに死を迎えることとなる。結局彼女は子供が生めない、というコンプレックスを最後まで克服することは出来なかった。日本初の女性医師の最後にしてはあまりにも悲しいものだった。