ヤスパース思想の原点
★★★★★
「処女作には作家のすべてが込められている」という言葉がある。方法論や思想の変遷はあるにせよ本作にヤスパースの源泉があるといっても過言ではないだろう。
彼は本書の中で精神医学は「一人一人の人間全体を問題にすることである」と述べている。そして精神医学の限界を見据えながらも「限界内になしうることは非常に広範囲に及んでいる」とも述べる。この信念は生涯の中で一貫していたと思う。
ヤスパースの探求生活は精神科医としてはじまったが、そのことが彼の哲学に重みと深みを与えたのではなかろうか。彼の哲学はつねに現実を生きる人間に目を向けているように思う。精神医学を志す方はもちろん、哲学を志す方にも読んでほしい一冊である。