往時のマンハッタンの雰囲気を味わいたい方へはお勧めか
★★★☆☆
往年のブロードウェイの大女優ジョディが死の間際に残した殺人の告白を発端に、大恐慌前後のマンハッタンの空気を濃密に描きながら、現代(1969年)において御手洗が謎を解くという体裁の物語。記述の殆んどは事件当時の担当刑事の視点で描かれる。
作者の比重としては、往時のマンハッタンの雰囲気を通して、文明のあり方等を論じている部分が大きいと思うが、謎解きとしても完結している必要がある。ジョディが口にしたファントムは妄想で、実在の人間と錯覚していると仮定しても謎は多い。
(a) 告白対象の興行師ジーグフリード殺害時、ジョディが1Fと34Fを行き来した方法は ?
(b) 踊り子と二人の女優の死は本当に自殺か ? 他殺とすれば偽装工作の方法は ?
(c) 演出家パンドロの殺害において、何故犯人はビルの大時計を用いるという大掛かりな仕掛けを用いたのか ? 目立つだけで、犯人の役に立ってない。
(d) ビルの設計者オーソンの死に際し、ビルの窓が全て割れたのは何故か ?
(e) オーソンが残した謎のヒエログリフの意味は ?
(f) 挿入される、セントラルパークの「地下都市」の話はどう係わって来るのか ?
(g) ジョディの掛かり付けの医師カリエフスキー殺害の動機と方法は ?
結末で明かされる真相は、相変わらず偶然性と環境の特殊条件に頼ったもの。特に、メインのアイデアはアメリカの高層住宅では珍しく無いのではないか ? (f)の謎が放置されるのも腑に落ちない。にも係わらず物語として読めるのは、犯人の造形と時代の雰囲気がマッチしているせいであろう。往時のマンハッタンの雰囲気を味わいたい方へはお勧めか。
久しぶりの読み応えのある御手洗もの
★★★★☆
龍臥亭シリーズやレオナの主人公もの、犬坊里美ものが会話シーンばかりで
あまり好きになれなかったのですが、
久しぶりに読み応えのある島田氏らしい分厚い(笑)御手洗ものでした。
摩天楼の成り立ち等バックグラウンドも興味深く、とても面白かったです。
それから石岡君と御手洗の掛け合いはもう書いてくれないのですかね
※ネタバレの指摘がありましたので一部削除いたしました。(2009年10月)
ご指摘ありがとうございました。またネタバレで作品に対する興味を失ってしまった方がいらっしゃいましたら、申し訳ございませんでした。
精緻なるアウトプット
★★★★★
オリジナルは2005年10月31日リリース。ミタライ・シリーズ。ミタライはコロンビア大医学部の助教授。ミステリィの世界は助教授がお好きらしい。
本作は島田荘司のアメリカ研究が随所によく出ている。『ロシア幽霊軍艦事件』の時のアナスタシアの説明も見事だったが、本作の摩天楼の説明も実に精緻で凄い。永くLAに住み、アメリカというものを作家としての体内に充分にインプットし、見事に熟成させて今、続々とアウトプットしている感じだ。ハリウッドをアウトプットした『聖林輪舞』も素晴らしかったが、CG制作の友田星児氏の作品を入れた本作はより素晴らしい。島田荘司のイマジネーションにただ脱帽である。タイプ的には『ロシア幽霊軍艦事件』型。ただ、モニュメントのヒエログリフによる使い方など、なんとなく『ギリシャの犬』にも似ている。
脳科学要素はなし。
★★★★★
御手洗潔が石岡くんに当たり前のことだと言わん語り口で解決を導きだす真相に驚愕!したい自分としては石岡くんと御手洗が揃わないのは若干物足りない感はある。
しかし、最初に提示される壮大な謎は申し分なく、御手洗の調査範囲がマンハッタン全範囲に及ぶという珍しい走り回る(走ってはいないが)アクティブな御手洗が描かれているという点では貴重だ。
一時期傾倒していた脳科学の蘊蓄はないが、摩天楼やマンハッタンの蘊蓄はたっぷりで歴史というよりは一番発展が目覚ましかった時代への憧れ、ロマンをふんだんに含んだ内容となっており、十分楽しめた。
最後に島田荘司が描いた摩天楼をある視点からみたときに事件の解決以上に芸術的な美しさが目の前に示されたと感じたのは自分だけだろうか。
挿し絵の大きさ、カラーという点で文庫読了後ハードカバーもチェックして欲しいところ。
挿し絵で事件の大きな要素が分かってしまうのでペラペラと後ろの方を見てしまわないように注意が必要だ。
トータル最近では少ない良作ではないだろうか。
関係ないが、島田荘司の弟子たちは島田荘司は越えられないんだろうな…それぐらいパワーを感じる。
厳しい採点。
★★☆☆☆
島田荘司特有の奇想に満ちた世界が繰り広げられるが、本格推理としては全く読者には推理不可能。では「ロシア幽霊軍艦事件」ほどの驚愕度やロマン性があるというかと疑問は残る。
「魔人の遊戯」あたりから感じていたことだが、冒頭の壮大な謎の割には結末が小粒なものが多くがっかりさせられるものが最近多い。こうしたことでは、氏の提唱する本格ミステリーから読者が離れていってしまうのではないか。