近赤外分光法の座右の銘
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どういわけか近赤外分光法は,これまで振動分光法の立場から徹底的に解説されたことがなく,濃度検量や水素結合の解析程度にとどまっていた.ケモメトリックスなどの解析法に頼りすぎて,本来まずやるべきであるバンドの正確な帰属などに,ほとんど誰も取り組んでこなかった.基礎よりは応用に偏りすぎた状態に,疑念が挟まれることは少なかった.
本書はこうしたこれまでの傾向を打破する意図で,徹底的に振動分光の立場にこだわった書き方で,玄人志向である.分光学的に見て,あいまいさはどこを探しても微塵もなく,著者自身が積み重ねてきたきわめて貴重な研究成果を体系的に整理整頓し,いわば長大な総説に詳しい解説を施したものと見ることができる.世界的に見てもユニークな存在であることは間違いない.これからの近赤外分光法のあり方を示した,極めて重要な著作である.