「不忍池図」の深遠な世界
★★★★★
あとがきによると、今橋氏は、「不忍池図」と初めてであったことのことを鮮明に覚えているという。その印象が彼女をして江戸絵を先行させたのだという。言ってみれば、本書はライフワークの結実といえようか。
その美術史上の評価や取扱、その「不忍池図」の場所の特定、モチーフの考究、美術的テクニックの探索から、小野田直武がこの絵に込めた意図やメッセージ、さらには当時の知的文脈を読み解き、明らかにしていく。
そして18世紀末の先駆的な思想・文化文脈がいかに近代において再発見されてきたかも示す。また、平賀源内や小田野直武に関する伝説的エピソードについて実証的考証が加えられる。
芸術論はどうしても客観性に難があることが多いが、本書は綿密な論証や調査で一つ一つ障害をクリアしている。
角館は、今では落ち着いたみちのくの小京都であるが、中国の伝統やオランダからの先進文化が流入・蓄積し、知的好奇心や芸術的情熱があふれる土地であったのだ。