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ブッデンブローク家の人びと 上 (岩波文庫 赤 433-1)

価格: ¥882
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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ドイツ本国では人気ナンバー1 ★★★★★
 二十世紀の文豪トーマス・マンが弱冠二十六歳のときに書き上げたこの処女長編を、トーマス・マン・マニアの小説家北杜夫氏は「わが最上の小説」と評した。ドイツ本国でもこの作品が最も人気が高く、自分はこれしか書かなかった方がよかったかも知れないと後年マンは茶化している(ちなみにアメリカでは『魔の山』、フランスでは『ドクトル・ファウストゥス』が一番人気だそうである)。兄のハインリヒ・マン曰く「この作品を書き上げて以後、弟が人生に悩む姿を私は見たことがなかった」その後のトーマス・マンの巨大な業績にかすんでしまいがちだが、読みやすさ、面白さという点ではマンの最高傑作と言ってもいいのではないだろうか。
 冒頭のパーティーの場面はフランス語での会話も含めてトルストイの『戦争と平和』を彷彿とさせるが、実際トーマス・マンはトルストイから「大きさ」を学んだと言われる。商家ブッデンブロークスの繁栄と没落を描いたこの作品のヒロインは、冒頭のパーティーで祖父にかわいがってもらっている少女アントーニエ(トーニ)であると言っていいであろう。政略結婚等の名家の定めに翻弄されながらも前向きに生きるトーニの姿は健気であり、物語を牽引する魅力的なキャラクターである。
 トーニの最初の夫となるグリューンリッヒとの結婚生活はグリューンリッヒの破産によって終わる。結婚前にトーニがひそかに想いを寄せていた青年がその後二度と登場しないのは心憎い演出である。トーニの父ヨハンの死によって上巻は幕を下ろす。
 次の長編『魔の山』に見られる難解さ、晦渋さはみじんもない。翻訳も読みやすく、トーマス・マンへの入門書として最適の一冊である。
傑作!されど岩波文庫は休刊中 ★★★★★
 本作はマンの出世作であるばかりでなく、ノーベル文学賞受賞作でもあり、マンの代表作の一つに数えられる作品だそうだ。その長さについ躊躇がこれまでは先立ち私は今回初めて読んだが、なるほどそういわれるに足る十分に魅力的な長編であり、岩波文庫で3巻に及ぶ長さもほとんど苦にならない楽しい読書ができた。
 25歳にしてこれほどの作品を書くマンの手腕には感服せざるを得ない。
 何よりも登場人物の造形がすばらしい。実在の人物をモデルにし19世紀的自然主義的手法によっているとはいえ、各登場人物の生き生きとした姿を描き切る手腕は単純な写実主義ではない。作者のずば抜けている人間観察力と天才的ストーリーテラーとしての才気の賜物だ。読者は小説を読む喜びがここでは確かに保証されている。だがそれにもまして本作のマンらしいのは、ブッデンブロークというかつては繁栄を極めた商人一族が代を追うごとに衰退しついに絶家するという物語である点であろう。この一族衰退の物語は抗し難き時代の流れでもあろうが、そこにマン独特の人間観、人生観を読み取ることもできる。最後の嫡子ハンノの、現実から逃避しがちで芸術的性向ばかりが勝っているその姿は、マンその人の反映に他ならないだろう。
 こういう名作は懐が深いだけに様々な読み方を可能にする。
 私はこの一族におけるキリスト教信仰の盛衰の物語として読んだ。ハンノの父トーマスは現実をシビアに見る目を持つ実務派ではあったが、彼に決定的に欠けていたのは、信仰を生活の中に根付かせる習慣である。つまりおよそ非宗教的な人物だったのだ。この非宗教的人物トーマスが、更に輪をかけて非宗教的なゲルダと結婚したことでこの家の衰退は決定づけられた・・・私にはそう見える。不思議なのはトーマスの両親は二人とも信仰生活重視型だったのに、その息子娘達はそろいもそろって信仰心が欠落している点である。マン一族の実在の家系は実際どうだったのだろうか?マン自身はキリスト教信仰をどう考えていたのか?等々私なりの読み方で本作のことを読後の今も気にしているのだ。マンのファンを自負する私だが、残念ながらそこまで彼のことを研究しきれていない。
 それにしてもマンは意外と最近の日本では読まれていないのか、岩波は今、本作の文庫を休刊にしているようだ。岩波も、時代に逆行した左翼の片棒担ぎなどいい加減にして、このような往年の名作を若い世代にもっとアピールする企業努力がもっと必要ではないかと思う。ドストエフスキーをうまくアピールして成功している出版社もあるようではないか。
 マンを愛好する日本の作家で有名なのは北杜夫と辻邦生だが、三島由紀夫もまたそのひとりらしい。マンと三島、一見遠いようだが共通したものも感じられなくもない。そういう観点も読書の一つの参考にはなろう。
若きマンの処女傑作 ★★★★★
 ブッテンブローク穀物商会の栄耀と没落を通じて、著者は西欧市民
社会(名望家市民による社会統治)の態様を傍観者的視野を持った当
事者として、若さ故の独特の瑞々しさと細密硬質な文体を通じて、時
に身を切られる程に辛辣に、時に暖かなアイロニーと共に描き出した。

 大衆民主主義前夜の市民社会における階級の浸透、日常的な目線で

語られる1848年の革命とその帰趨、市民富裕層へのキリスト教の浸透
論理といったトピックとしての面白さ、没落の人となったトムの手に
取られたニーチェ(世紀末思想の市民社会での断片的受容の形態)、
トムとヨハンの重なり合いとトムからの社会観念からの切り離しに
への著者の秘められた哀惜、そして自らの分身であるヨハンに対する

、著者からの冷厳で一種倒錯的な甘美さすら漂う最期....。ともかく
、『見事』に描かれた一大長編作品である。

ブッデンブローク家の人々 ★★★★☆
トーマス・マンの最初の長編小説であり、自叙伝的なこの物語は19世紀の北ドイツに住むブッデンブローク家4代の話です。私は大学のゼミのためにこの本を読みましたが、100年経った現在にも共通する問題や悩みが書かれていて、読み終わった後とても考えさせられました。幸せで裕福な生活を送っていた一家がだんだんと商売がうまくいかなくなり、それに伴い時代的背景や子孫の減少などで最後はほとんど壊滅状態になります。その過程でも一族であることの誇りを持ち、またそのために不幸を招いたりとトーマス・マン特有のユーモアと皮肉を交えて書かれています。現在絶版と言うことで入手が困難なのはとても残念です。