具体的に言うと、『精神現象学』の方は、その育成の対象が自分自身であり、『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』の方は、その育成の対象が主人公である「ヴィルヘルム」という点だ。
さて、『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』の内容であるが、主人公のヴィルヘルムは、さまざまな人間模様の中でヴィルヘルムが成長していく。失恋、仲間の死、子供との関係、ヴィルヘルムの負傷等、さまざまな場面がある。時には成功し、時には失敗する。時には何かに気付かされ、時には何かを失っている。こういうことは、物語だけの話ではなく、人間一人一人にも十分当てはまることである。
また、この小説での巧みな人間関係の描写は賞賛に値する。上巻と中巻で、ヴィルヘルムと関わりを持った人間達が、下巻で、実は何らかの形で繋がっていたことが明らかとなる部分も魅力的だ。
哲学的な要素を含みつつ、演劇的な部分(ヴィルヘルムは芝居に興味がある)もあり、とても読み応えのある本である。