一つ屋根の下に住んでいながら、全く歩み寄れていない白人夫婦。同じ黒人でありながら、全く違う環境で育ち、強く惹かれ合うものの、最終的には分かり合えない恋人同士。幼くて孤独な白人女性とその子供の歪んだ親子関係。これを黙ってみている黒人のメイドと白人雇い主との、これまた歪んだ関係。
縦と横に複雑に絡み合う、繊細で複雑なストーリー構成は、アメリカの多民族性やアフリカン‐アメリカン社会の現実を描き出しているんだな、と浅い知識ながらも感じた。
国と国との距離が精神的にも、肉体的にも近くなった今、日本人を含めて多くの人たちが自己のアイデンティティーを知らず知らずのうちに喪失しています。この本は、自分の人種に固執するものと、それを見ないことで自分の価値を確立したものが、男女の違いを含めてぶつかりあうさまをよく描いていると思います。
決して一方向からではなく、幾多の視野からの見方を、物語の中に反映させるさまこそ、トニモリスンの文学であり、彼女の手腕です。