毎日毎日、無差別に垂れ流される膨大な量の情報の中で、現代社会に生きる人々は、いつしか、自らの価値判断を放棄し、日進月歩の技術の発展と、消費傾向の操作を目的とした情報の渦の中で、振り回され、躍らされ、自分自身を見失っていく。
我々「大きな人間」の高度に発達した文明に魅せられ、それらを短期間に急激に吸収していくうちに、頭と心のバランスを失い病にかかってしまう若いニングルは、文明の速すぎる発展に戸惑いながらも、自らをその社会の中に組み込み、いつしかその波に呑み込まれ、より便利なものを、より高価なもの-社会全体が、隣の人も価値があると認めるものを、とにかく最先端の流行を、と振り回されて疲弊していく、現代の我々そのものである。
メルヘンのような設定に、実在する人物を加え、ドキュメンタリーのような語りを展開し、読者をその世界に引き込む点、また、ドラマチックな場面展開を映像的な描写で読者に描かせる点は、さすが劇作家である。その一方で、鋭い言葉で本質を追求する。ニングルが発する「知らん権利」という主張を、反芻しながら、何度も読み返したい。
少しでも多くの人が、”ニングル”を手に取る事で、これから私達人間が生きていく道について考えるきっかけが生まれればと思います。
自然破壊や環境問題についてのどんな流行本よりも、この本を読んでほしいです。まずは大人に。