テクノロジーと死にとりつかれた人間
★★★★★
何年か前にクローネンバーグが映画化したバラードの問題作が文庫化されたので、読んでみた。
交通事故に性的欲望を抱く人間っているのかなってはじめは思ったけど、テクノロジーとか人体改造ってたしかに欲望の対象となる気がする。
1973年の作品で、もう30年以上前になるので、性的な描写は当時はインパクトはあったんだろうが、今はそうでもない。ただ、バラードの小説って古臭さを感じさせない。テクノロジーや死にとり憑かれた人間って極めて現代的なテーマだ。
余りに預言的…
★★★★★
機械と肉体との悪夢的、魅惑的な婚姻…コレ37年前の作品っすよ!!!!
バラード、というか20世紀小説中でも屈指の大傑作。スタイルも内容も読者にもたらす意識の変容の強烈さも、全てがケタ外れだ。パラニューク「ファイト・クラブ」は本作へのオマージュだし。
訳者あとがきでバラード本人の交通事故体験が脱稿直後、ダイアナ妃の事故が最初の邦訳より後と改めて知ると、本書が余りに預言的すぎて戦慄を覚える。著者本人の序文、訳者あとがきもかっちょいい! ペヨトル版も再読してみたい。本書のひながたが含まれる「残虐行為展覧会」も文庫化とか再刊しないかな…
「人生は芸術を模倣する。バラードの妄想はついに現実世界のかたちすら変えてしまった。我々が住んでいるのは、今その世界なのである。」(訳者あとがき「クラッシュする世界」)
いま、その世界から、バラードが飛び立ってしまった。追悼。
括約筋と海綿体の予期しない交差点は収穫さるべき倒錯の可能性を寄せ集めたものだ
★★★☆☆
自動車事故に魅せられた人々。潰れて血まみれとなった車体、無惨な姿となって回収される犠牲者や朦朧とし半死状態で救助される人々。そのシーンを観察し記録し妄想し、己のエクスタシーを追求する倒錯者たち。性の衝動と死への憧憬が互いに侵食しあい融解していくさまが描かれています。テクノロジー社会に逼迫される人間の精神が、偉大ともいえる人類の歪んだ想像力でもって危機を乗り越えようとする「逸脱の論理」を追求するのです。クラッシュと死という大きなオルガズムを知ってしまった現代人はどこへ行けばいいというのでしょうか。
本作は'73発表のいわゆるテクノロジー作品群のひとつです。激変する社会の中でもがく現代人の精神病理を切った作品ですが、近作と比較すると完成度は微妙です。エロスとタナトスを表現・描写する手法も直喩的・換喩的であり、最近の作品群の隠喩と寓意で織りなされる奥深い味わいまでは達してないと思います。ただしバラード作品のモチーフとなるキーワードは凝縮されています。ヒースロー空港/郊外・高速網、パイロット/飛行、女医(小児科医)/救急病棟(精神病棟)、身体障害/装具などなど。
1930年生まれのバラードは近年もなお精力的に作品を発表してます。『コカイン・ナイト』('96)『スーパー・カンヌ』('00)『Millennium People』('03)『Kingdom Come』('06)と、共同体における「倦怠と暴力の社会精神病理」が完成度の高い筆致で描かれてますが、『クラッシュ』はそれらのエロス側面のプロトタイプでしかも激しくクラッシュしてます。そしてついに『Miracles of Life』('08)という自伝も出てしまったようです。(そろそろバラードの読み頃だと思いますので入手し難くなってるバラード作品をお抱えの出版社の方は今後も文庫化等よろしくお願い致します)
やっと読める!
★★★★★
SF紹介本などで、タイトルは知っていたが、バラードの他の作品と違って見かけることのなかった本。ペヨトル工房から単行本が出ているが、文庫好きとしては、我慢していた。創元文庫のバラード作品はカバーデザインも雰囲気があるので、二重の楽しみ。読む前から五つ星を付けてしまったが、さて内容はいかに?