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チューリップ熱

価格: ¥2,310
カテゴリ: 単行本
ブランド: 白水社
Amazon.co.jpで確認
オーソドックスな起承転結 ★★★☆☆
良い意味でも悪い意味でも、「なるほどスピルバーグが喜びそうな」と思った。
物語を盛り上げるセオリーを単純すぎるほど明快に踏襲しているので、
テンポを落とすことなく先を楽しみに読み進めることができる。
しかしそれほど目新しいどんでん返しがあるわけではない。
誰でも読みながらある程度は展開を予想できてしまうだろう。
それでも、17世紀アムステルダムの熱にうかされたような活気と
そこで育まれた絵画のエッセンスは全体にちりばめられている。
映像的な想像をめぐらせながら読むと楽しめると思う。
鮮やかなストーリーテーリング ★★★★★
官能的描写が多く表現が露骨なところもあるのですが、テンポがよくて嫌悪感がわく暇がない。
2004年の東京都現代美術館「ピカソ−躰とエロス」展でみた
ラファエロと愛人と教皇の一連のデッサンを思い出します。
老いた主人と若く美しい新妻、そこへ才能ある若い画家が現れる。
オランダ絵画で緻密に描かれるまさにあの室内で、この三人が繰り返し出あうことによって始まるドラマ。
何がこの三人の心理で起こるか予想できすぎるほどですが、彼らは行動の人となり、読むほうはぐいぐいと
その展開に引き込まれます。
章が短い。絶妙なカメラワークの映像を見るように、登場人物それぞれの瞬間の心理や行動を読み取ることが
できます。展開の流れがとにかくおもしろいのですが、この作品はオランダ絵画の勝利とも言える。
民衆や生活、食材や衣服、あの時代の風俗を現代の私達はあの作品群から簡単に思い浮かべることができる。
言い換えれば、オランダ絵画の作品群のなかにこのストーリーはすでに含蓄されていたようにさえ思えてくる。
それほど見事に絵画とストーリーがマッチしています。
心の開放が個人レベルであって救いがあり、読んだ後はストーリーの満足感とともに、
単なる絵画鑑賞から絵画に描かれたドラマを読み取る感覚まで得られます。

十七世紀オランダの世界にどっぷり。 ★★★★☆
十七世紀初頭のオランダで、愛好家や栽培業者のあいだで取引されていたチューリップが異常な社会現象を引き起こし市民をも巻き込んで、投機の対象となった事実を。珍しい球根一個が邸宅一件分にも相当することがあったなんて信じられますか?このチューリップ・フィーバーのおかげで一夜にして大金持ちになった者もいれば、失意のどん底に落とされて運河に身を投げる者も後を絶たなかったなんて。
本書は、その当時の様子をまるで映画を観るように活写しています。各章はそれぞれ登場人物の名を冠してあり、その人物の視点で語られます。また、その章の短いこと。最初は少し物足りない気がするのですが、慣れてくるとこれがなんともテンポよく物語を進めてくれます。
主要な登場人物は四人。貿易を生業とし、裕福で尊大な初老の男コルネリス。その妻であり、貧苦にあえぐ家族のため若い身空でこの男に嫁いだ美しいソフィア。二人の肖像画製作の依頼を受けた情熱的なヤン。農民の出ゆえ、ほがらかで屈託なく自分の欲望に忠実な女中のマリア。
この四人を取り巻いて、物語は運命の一夜にむけて盛り上がってゆきます。読んでいる間は、内容がなんとなく俗世的で、登場人物達も少し欲望にはしりすぎかなという気がしましたが、時代が時代ですし、当時はこういう行動が普通だったのかなと思えてくるから不思議です。
そして特筆すべきは挿入されている当時の画家達のなんとも意味ありげな十六点ものカラー絵です。フェルメール「女と召使」や「窓辺で手紙を読む女」などは本書に出てくる場面そのままですし(フェルメールといえばブルーが有名ですが、この「窓辺で手紙を読む女」の幻想的で鮮烈なグリーンの素晴らしさはどうでしょう!)ホーホ「リネン箪笥で」に描かれた奇妙なズレや、レンブラント「ダナエ」の黄金に満ちた配色の美しさ、ニコラス・マースの諧謔あふれる女中物、それぞれ素材の違う物をテーブルに配し光をあて、見事に封じ込めているステーンフェイク「ヴァニタス」等々、どれもこれもほんとに素敵でした。これだけでも本書を手元に置いておきたいと思います。
小説と言える小説 ★★★★★
ともかく、読んでみるべし。「小説」に出会えることを保障する。この頃の新作小説に呆れておられる方々には、無条件にお勧め。
緊張感あふれる本 ★★★★★
 小説でありながら、まるで映画を見ているような臨場感と緊張感、迫力を感じさせる本である。文字を追いながら、その場面がそのまま映像として目の前に浮かんでくるような気にさせる。それは、ところどころにはさまれた当時のオランダの画家やフェルメールの手による絵画の効果もあるかと思うが、何よりもここに登場する人物の個性の豊かさにあるだろう。画家、その恋人、夫、画家の下男、女中、その恋人、医者とそれぞれが、本の中で個性を発揮して重要な役目を果たしている。また、場面場面を一人の人物の立場から書くという手法が、さらに登場人物の個性を際立たせているのかも知れない。

 無知な人間が、高価なチューリップの球根をたまねぎと間違えて食べてしまいそれが「終わりのはじまり」になるという、作者の風刺の上手さに感心した。