『抱擁』は,現代の文学者ローランドとモードが研究テーマを追うなかで偶然,手紙の下書きを発見し,調べるうちにヴィクトリア朝の著名な作家(アッシュとラモット)の秘められた関係が浮かび上がってくるというミステリー仕立て.現代の研究者たちの話,過去に交わされた書簡,そして二人の作家が残した詩や物語と,3つの構成から成っている.
妻だけに詩を捧げたアッシュ,フェミニストで同性愛者のラモット.彼らの不倫が明らかになれば,スキャンダルであるばかりでなく,文学史研究そのものが覆される.
実在の作家や作品,史実が如実に盛り込まれながら,アッシュとラモットはフィクション.虚実の綾が見事に織り成す,現代と古典の愛.