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われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)

価格: ¥810
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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ヘミングウェイ文学 ★★★★★
ヘミングウェイは人物を描いたり、主題を伝えるために、人物の行動、会話、また背景の描写
を使った作家です。くどくどと内面描写を書かず外面描写をもっぱら使いました。そこに書か
れた言葉を理解するのではなく、「行動、会話、背景の描写」が何を意味するのか読み取るこ
とが求められます。
ですので、初めは何について書かれたものか判らず困惑したりします。
ですが、彼の短編の中で一つでも気に入るものがあり、その作品から何か汲み取れた時は、今
までにない感動が味わえます。そして、一見意味のないように思える彼の簡潔な文体に無駄が
なく、推敲を重ね考え抜かれたものであることがわかるに至ります。

ヘミングウェイは偉大だ。
「マッチョさ」とかけ離れた短編集 ★★★★★
ヘミングウェイへの先入観である「マッチョさ」とかけ離れた短編集。
大変繊細な感性の持ち主でないと捉えられない世界を切り取り、そしてそれを的確な言葉(もっと言えば行間の言葉)で示す姿に圧倒。
短編小説の名手でもあったヘミングウェイ ★★★★★
ヘミングウェイは好きな作家で、ハードボイルドな作家として認識していました。
「誰がために鐘は鳴る」、「武器よさらば」、「日はまた昇る」、「老人と海」と読んできましたが、短編全集が出るとのことで、買って読んでみました。

一言でいって、ヘミングウェイは短編小説でも傑作を残しているんだと感じました。
また、単純にハードボイルドな小説ばかり書いているのでないことも分かりました。

本書に収められている短編では、「何を見ても何かを思いだす」が一番印象に残りました。
本当に短い話ですが、自分が育てた息子を何とも言えない形で失った悲哀というものを感じます。

ユーモアを交えた話から、哀調を交えた話、そしてハードボイルドまで、堪能できる小説集だと思います。
鮮やかに立ち昇る感情 ★★★★★
アーネスト・ヘミングウェイの才能と魅力は、短編でこそ発揮されうるのではないか。短編小説が小説の一分野であるならば、この作家はそこにおける最高の作家の一人ではないか。そのようなことを考えさせられる素晴らしい短編集です。
ヘミングウェイはその長編小説において著名ですが、内戦や海といった舞台のために「男性的」な作家であるという認識が広がりすぎているのではないでしょうか。その表現が全く不適切な訳ではありませんが、この作家の真の才能と魅力は別のところにあります。情景の描写や登場人物の会話の行間から、登場人物の感情が立ち昇り、それが私達の心を揺らします。これは仄めかしや勿体ぶりとは全く異なるもので、ヘミングウェイの豊かで繊細な感性、それを表現する才能と技術ゆえに遂げられるものです。こういった魅力が、この短編集では長編と同等あるいはそれ以上に堪能できます。
個人的な意見になりますが、十ページの小品『クロス・カントリー・スノウ』について述べたいと思います。これは私がヘミングウェイの作品のなかで初めて接したもので、米国のスキー雑誌『POWDER magazine』(2000年1月号)においてでした。ニック・アダムス(彼の人生の折々を描いた作品群が、これらの短編集には収められています)と友人のジョージがスイス・アルプスをスキーで滑降し、ロッジでのひと時の休憩の後に再び滑降して行く、ただそれだけのストーリーです。そこで描かれるのは、滑降やロッジの描写、二人の間に交わされる途切れがちな会話、それだけです。しかしそこからは、結婚と妻の出産を控えたニックの後悔とも諦念とも似て非なる言い難い感情が、鮮やかに浮かび上がってきます。
以前の私のように「男性的」であることを恐れ、ヘミングウェイの作品を紐解くことを躊躇している方がいれば、この短編集から入ることで、この素晴らしい作家の世界へとよりスムーズに引き込まれるのではないでしょうか。
哀愁ある男の文学 ★★★★★
ヘミングウェイの短編ないし掌編17作品を収録。

一般的に、ヘミングウェイは、その外面的なワイルドさや、それに見合うアウトドアな作風が魅力であるように思われているのでしょうが、私が思うヘミングウェイの最大の魅力は、特にバーなどでの静かな場所での、会話の裏から漂ってくる哀愁の表現、といった点です。

故に、本書の中では、『清潔で、とても明るいところ』、『世の光』、『スイス賛歌』、『ワイオミングのワイン』、『父と子』、『キリマンジャロの雪』などが、私的に好きです。私は、中でも、『清潔で、とても明るいところ』が一番好きで、夜中に独りで、静かにひっそりと、何度でも味わっている作品です。


そのライオンさながらの外面の内に秘めた、ヘミングウェイの繊細さや、微細な哲学が、文字の奥から蠢き出しています。ヘミングウェイの手法は、「氷山の理論」と呼ばれるもので、それとは、「真意の7/8を隠し、1/8のみを文章として浮き上がらせる手法」のことです。つまり、読者は、文字として現れている表面の意味以上のものを、探りながら読んでいくことで、初めてヘミングウェイのことを、本当の意味で理解し得るということです。ただ、こういった翻訳書でも、十分に楽しむことは出来ますが、本来は原書で、その「氷山の理論」を用いた、ヘミングウェイのゴリゴリした文体を味わうことが、ベストであるには違いありません。

一読しておくと、何処かに旅行にでも行くときに、鞄かポケットに、入れていきたくなるような一冊です。
虚飾を廃した短い作品群であるが故に、その中でお気に入りの作品が見つかれば、人生の御供になり得ますし、噛めば噛むほど、味が出ます。