「序文」がガマの油売りものけぞる売り口上なので、こちらは触りのみご紹介を。
第一話は、セレクション第1巻のゴリオをコインの表とするなら、裏になる話。
第二話は、第1巻でおなじみの貴婦人と情熱的な貴公子との道ならぬ恋の顛末。
第三話は、鳴り物入りで登場する美青年が「えっ、あの彼!?」で、オチも凄いミステリ+ホラー味の恋物語。
恋物語が3分の2といっても、そこはバルザック。熱愛の対象も死体となるや海にドボン。トリを務める貴婦人は、血の惨劇直後の現場で平然と事後処理の話をする。現実主義、ここに極まれり。
また、「むしろ逸脱の方こそ本題」と、作家の言うとおり、「お役所」仕事の不毛ぶりに言及したり、「うぬぼれがはなはだしい」のは「(仏)国民的欠点」と公言して、時に秀逸な階級考もぶつ。
実は個人的に「読む恋愛」は非常に苦手である。故に当巻のレビューは任にあらずと思ったが、『中島敦全集』を読み始めて、不意にバルザックと再会し、これは偶然ではないと腹を据えた。要はバルザックが高村薫から中島敦、プルーストにまで愛される作家だということだ。
更に巻末の対談で、中沢氏は「十三人組」を、日本でも『ダヴィンチ・コード』で一躍知名度の上がったシオン団(修道会)と結び付けているから、そういった視点で読むのも一興だろう。