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十三人組物語 バルザック「人間喜劇」セレクション

価格: ¥3,990
カテゴリ: 単行本
ブランド: 藤原書店
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胸に迫る悲しみの「ランジェ公爵夫人」 ★★★★★
 13人からなる秘密組織にまつわる3編の物語で、絶妙なストーリーテリングにより全作お勧めできる。いずれも痛ましい結末を迎えるが、王政復古期の華胄界における恋愛葛藤劇を描いた「ランジェ公爵夫人」がひときわ感動的。馥郁たるロマンの芳香と、言い知れぬ哀調をたたえ胸に熱く迫るものがある。

 青年将官のモントリヴォー侯爵は、サロンの女王然とした可憐なランジェ公爵夫人に熱烈な恋をする。夫人もその気になるが、浮気と宗教心、貞節観念を交錯させなかなか落城しない。まんまと手玉に取られたと憤慨し、秘密組織を背景に復讐する侯爵。しかし、それは全くの見当はずれで、夫人は懊悩しながら道ならぬ恋の焔を燃焼させていたのだ。その至純な愛を神に捧げ、信仰生活に新たな希望の光を見出そうと、彼女は世間を捨てスペインの孤島の修道院に入るが、5年後……。

 侯爵、夫人ともに陰翳に満ちた彫りの深いキャラクターが与えられ、作品をぐんと奥行きのあるものにしている。読みどころは、何といっても恋の駆引きの妙。その互いの胸を探りあうデリケートな心理戦は、男性の筆とは思えぬほど精妙に描かれている。ふたりの間で交わされるニュアンスに富んだ甘美な会話、いささかこそばゆい秘密のやり取りについ引き込まれ、華麗なサロンで狂おしい情念の火花を散らす貴顕淑女の姿が目に浮んでくる。しかし、ドラマが進むにつれ、夫人の漏らす言葉は忍び音のようなトーンに変り、嘆きの余韻が尾を引いていく。

 生涯を通じて多くの女性と恋をしたバルザック。そのうちの一貴婦人が公爵夫人のモデルで、彼女とは一悶着の末に関係が解消されたという。そんな苦い恋愛体験から導き出された箴言や警句が作品にちりばめられ、匂いたつロマンスにピリリとした薬味を添えているのも特筆されよう。それにしてもエピローグで語られる夫人の運命はあまりにも悲しい。

 
恋物語バルザック風 ★★★★☆
 「序文」がガマの油売りものけぞる売り口上なので、こちらは触りのみご紹介を。
 第一話は、セレクション第1巻のゴリオをコインの表とするなら、裏になる話。
 第二話は、第1巻でおなじみの貴婦人と情熱的な貴公子との道ならぬ恋の顛末。
 第三話は、鳴り物入りで登場する美青年が「えっ、あの彼!?」で、オチも凄いミステリ+ホラー味の恋物語。
 
 恋物語が3分の2といっても、そこはバルザック。熱愛の対象も死体となるや海にドボン。トリを務める貴婦人は、血の惨劇直後の現場で平然と事後処理の話をする。現実主義、ここに極まれり。
 また、「むしろ逸脱の方こそ本題」と、作家の言うとおり、「お役所」仕事の不毛ぶりに言及したり、「うぬぼれがはなはだしい」のは「(仏)国民的欠点」と公言して、時に秀逸な階級考もぶつ。

 実は個人的に「読む恋愛」は非常に苦手である。故に当巻のレビューは任にあらずと思ったが、『中島敦全集』を読み始めて、不意にバルザックと再会し、これは偶然ではないと腹を据えた。要はバルザックが高村薫から中島敦、プルーストにまで愛される作家だということだ。
 更に巻末の対談で、中沢氏は「十三人組」を、日本でも『ダヴィンチ・コード』で一躍知名度の上がったシオン団(修道会)と結び付けているから、そういった視点で読むのも一興だろう。