二百年近くも前に「いじめ」が現在とそっくりな形で存在したのが、もうあんまりだ。原因の考察も非常に鋭いだけに辛い。この手の鋭く冷徹な人間考察には何度も唸らされる。上流社交界の空騒ぎとは対照的な、ゴリオの報われない父性愛にも、その度「あんまりな・・・」としか言えない気分になる。
一方、本書は見方次第で、ミステリーあり、スキャンダルあり、捕物もあれば、美談もある。どこか突き抜けていて、納得の比喩でタイミングよく和まされ、結末には開放感もある。
『人間喜劇』とるす構想に押されたのか、ゴリオの登場場面がやや少ないのが惜しまれる。だが、総題の登場人物の顔見世にせよ、奥行きと凄みのある魅力的悪党ヴォートランは、その後の再会が楽しみになる。いつもいる割に印象の薄い気もするラスティニャック青年は、先に他で見かけた方には初々しく映るだろう。
読者が未婚のお嬢さんのお父上なら、ハンカチ、ティッシュのご用意を。それから、対談の中野さん、あなたまでゴリオいじめに加担するのはあんまりですよ。