小学生から読める風刺の効いた人生観を問う短編集
★★★★☆
アジア人初のノーベル(文学)賞受賞作家タゴールの短編集。詩集の“ギタンジャリ”以外はほとんど邦訳が手に入りにくい作家なので、その意味で貴重です。内容は平易で、小学生からすすめられ、10編の短編は、それぞれ15分もあれば読むことが出来ます。世界的に読まれている”カブリワラ“が”カブールの人“の表題で収録されています。出典は3つの短編集から集めたもので、“もっとほんとうのこと“というオリジナルの短編集はなく、一つの短編の題名です。訳者あとがきによれば、この作品はもともと”妖精“と”もっとほんとうのこと“の二つの短編を訳者の判断でまとめたものとのことで、オリジナルが読みたいという人には、この作品に限っては向かないかもしれません。”ギタンジャリ“のような崇高かつ神聖で深みのある内容ではなく、もっと現実に即した風刺のきいた作品で、それぞれの作品のメッセージは、読者各々に考えさせるような体裁で、軽い気持ちで読めます。厳しい結末のものが多く、こころ暖まるというよりは、現代人の人生観に批判を与えるものです。特別にヒンズー教の神は登場しませんので、無宗教の人にも他宗教の人でも抵抗なく読めます。タゴールの”ギタンジャリ“にみられる深い宗教・哲学・人生観を期待する人には、やや期待はずれかもしれません。
タゴールの深い英知と限りない善意に満ちた本
★★★★★
10のお話は、まるで子供向きの御伽噺で、一見他愛なく思えるが、これらは知的に理解させるものではなく、魂に訴えかけるものであると思う。
おそらく、ほとんどの場合、これらを読んでも、大したお話ではないとか、ごくありふれた説教のように感じるかもしれない。しかし、お話に秘められた真の英知が魂の曇りを少しずつ拭きとっていく・・・そのようなお話であると思う。
本当の自分に目覚めるためのいろいろな道があると思うが、タゴールの本書でのアプローチは英知と共に限りない善意に満ちたものであると思う。
タゴールの薫りただよう
★★★★☆
タゴールの寓話は多層的で、厳しさとやさしさが同居している心地よさがあります。寓話でありがちな、不条理な世界を無理に二元論的な条理にあてはめている苛立ちがあまり起きないように思います。
とはいえ、いくつかの作品には、あまりにもメッセージがストレートで、「説教くさい」という印象を持ちました。
長老の物語を、ある時はしみじみそうだなと、ある時はそんなこと言われたって、と思いながら聞いているような、そんな空気を楽しめる一冊です。