短編集です。特定の地域の特定の時代の風俗,気分を前面に出しているので,それが気になると違和感があるかもしれません。それぞれの話は,直接には相互になんの関連もないものですが,読み進めていくうちに,どこかで見たようなシチュエーション,前にも出てきたような人物がちらほらと見受けられました。もしかしたら,本当はとても細かくそうしたカラクリを張り巡らせてあるのかもしれません。
ひとつひとつの話はバラバラですが,全編を通じて感じたのは,自分が世界の中心から外れていて,常にその辺境から世界の中心を見つめている,という雰囲気でした。そのまなざしは,憧れとそして劣等感とに満ちており,読んでいて次第に惨めな気持ちになってきました。
最後の一編では,その劣等感と!の長い格闘のあげくに,ようやくそれをうまく飼いならすことが出来たと解放感に胸を張った次の瞬間,実はその惨めさから一歩も逃れていなかった自分を見出して底無し沼のような無力感に沈んでしまいます。
読んでいて決して楽しい本ではないのですが,どういうわけか不快な思いはなく,もう一度読み返してみたい思いが残りました。