残酷な話
★★★☆☆
白鷺シリーズ完結です。
「蜜は夜よりかぎりなく」「双曲線上のリアリズム弥刀」「逆理―Paradox」が収録されてます。
予想以上に読み応えがある短編集でした。
「蜜は夜よりかぎりなく」は知靖×藍のすれ違い生活。
藍は時間を合わせても知靖が手を出してこない事に悩みます。
知靖はまだ広い世界を知らない藍をしばってはいけないと思っていたのでした。
恋人としてより保護者の方を優先したってことでしょうか。
でも嫉妬もあるし辛かったね。
「双曲線上のリアリズム」は弥刀×宏樹の話。
交番勤務をする宏樹は人間として成長し始めます。
仕事と弥刀の存在は自然の情愛の芽生えを宏樹に促したようです。
この話良かった、好きです。
「逆理―Paradox」は藍の父・衛×画商・福沢の出会いと別れ。
頑固な父親にやりたいこともやらせてもらえず鬱屈した反抗心を抱く衛を言葉巧みに手に入れる福田。
この関係は主従関係であり愛ではありません。
やはり福田は若い頃からこうだったのね…
性的にも精神的にも壊されるこういう話は苦手です。
人格形成される14才から藍は福田の思いのままにされます。
間違いなく犯罪。
読んでて傷付く話です。
本篇から予想してたのでダメージは多少押さえられましたがやっぱりショックでした。
めぐみもかわいそうだよ。
妻じゃなくて母親だもんね。
この手の残酷な話は二度と読みたくないです。
最初の2つの短編は良かったので、星は3つにしました。
4つの愛の形、いや5つか?
★★★★★
白鷺シリーズと呼ばれるシリーズの最終刊でそしてそれぞれの後日談。
短編集とのことで、それほどの読み応えを期待はしていませんでした。
良い意味で裏切られました。
知靖と藍・弥刀と朋樹そして白鷺シリーズの陰の部分を担った福田と藍の父・衛
衛と藍の母・愛のそれぞれの愛の形…と思ったのですが
そこに衛の藍への愛情を入れて5つの愛の形。
読んでみるとどの愛も「愛」だなあと感じます。
知靖と藍は知靖の暗く歪んだ生い立ちや彼の今までを藍があの素直で鷹揚な心で包みます。
弥刀と朋樹は朋樹がやはり育った環境から愛情を与えたり得たりにとても鈍感でしたが
そのなかなか動かない心を弥刀が根気良く素直な気持で溶かしていきます。
そして番外中の番外、藍の父・衛の人生を描いた最後の一編は重いです。
心がキリキリ痛むようなお話でした。
好き嫌いがかなり別れるでしょうが、私は読んでよかったと感じています。
求めずにはいられず愛した人と
全てを受け止めて自分を愛してくれた人への愛と
何もかも捨てて愛した子供。
福田と藍の父・衛の愛情は鬱々とした空気の中で育ったものではあったけれど
それでも確かに愛していたのだとそう穏やかに思えた彼を
幸せだったと感じるか不幸だったと感じるか…
私にはなんとも判断できませんでした。
ただ彼がなんとしても守りたかった藍が今幸せで本当に良かった、そんな風に思いました。
でも若き日の福田があんなに素敵だったとは年月とは恐ろしいものです(笑)。