応用倫理学最適の入門書
★★★★★
はっきり言って、応用倫理学の入門書に良書は少ない。嫌な言い方であるが、特殊米国的な発想をそのまま普遍的なものとして押し出してくるものがほとんど。或いは、データなどの情報量の多さを「応用」と取り違えているのではないかと思う(特に生命倫理の分野でこういうパターンが多い)。そんななかで、地味であるが知的に誠実な、思索の深みを教えてくれる本である。現代の抱えるあまりにも多い課題に直面しても、ひとつ、ひとつ、と自分なりの答えを探していくそのプロセスこそが、倫理学的思考なのだということ、それは決して無為でも無意味でもないと気づかされる。ぜひ、あとがきから読んで欲しい。絶望は、1、2年のことだが希望は数百年の長い射程を持つものだという著者の言葉には、胸にしみる温かさとと力強い説得力がある。同じ著者の『いのちとすまいの倫理学』と併せて読まれることをお勧めする。