大友克洋氏も影響を受けてますね
★★★★★
ブリキの太鼓は、グラスが創作した非現実で想像を超えた独特の世界観で構成されている。
例えば、主人公オスカルは3歳で成長が止まっており、外見は幼児だが頭脳は大人である。
またオスカルは、自分の“声”で物体を粉々に破壊するという特殊能力をもつ。
自分の意志を高めることで、ガラスなどを自在に粉砕する。
さらにオスカルはある日、不良グループ一味に取り囲まれる。
オスカルは少年たちにこう言った−「私はイエス(キリスト)である」と。
少年たちのボスは全てを理解し、オスカルを新しいリーダーとして受け入れた。・・・
ここまで書くと、大友ファンならピンと来たはず。
アキラには、見た目は子どもで顔だけが年相応に老化した“大人子ども”が登場する。
彼らは超能力のように物体に手を触れずに破壊できる。
さらに同じく少年の姿をしたアキラは、混乱した世紀末的都市「ネオ東京」で、
救世主として祭り上げられる。・・・
SF世界を矛盾や破綻なく創造するには、
理想と現実とがお互い行き過ぎることなくバランスを保つ必要がある。
絵空事にならずに、なおかつ超現実世界を生み出すには、相当の技量がいるだろう。
子どもの純粋さと大人の成熟との同居や、
人間の欲望の一つである破壊衝動、
それに現実の世界と“神”の奇跡についての関係などを、
破綻なく築きあげたグラスにも大友にも賞賛を与えたい。
変人オスカルの視点
★★★★★
自分の意志により3歳で身体の成長を止めたオスカル。3歳のオスカルとういう箱を通して青年オスカルは社会を覗く。もちろんその視点は極めて歪んでいる。オスカルだけでなく物語のなかで世界はいろんな経験をしていく。その一番大きなものは戦争であるが。悲惨な戦争もオスカルの目を通すと淡々としている。人間はとにかくいろんなことに翻弄されっぱなしだということ、そこには選択の余地はなく、まるで人間はゲームの駒のよう。しかもそれが人間の起こしたものによるなんて。オスカルのへんてこな視点を通し読み進めていくと、オスカル以上ににその他の人間も愚かでへんてこだと感じ始める。オスカルと対立する立場で読んでいたのが、物語の途中でオスカルの感じ方に同調している自分に気づいたのだ。無意識に残酷で冷淡なオスカルが神の存在を認め(そこで終われば感動的だが)、自分こそがキリストだと意識していくところ、無意識にとった行動が(無意識とは思えないが)自分の父を死に至らしめるところ、とにかく皮肉だがユーモアもたっぷりで面白い。また誰もが感じるところだが表現がどうしようもないほどグロテスク。しかしそれだけでなく強烈なメッセージを持っている素晴らしい小説だということでお勧めしたい1冊である。