ありそうもない、ある男の数奇な運命の設定がおもしろい。
ピアノバトル等エンターテイメント性もそこそこあり、
最後まで観る気にはなった。
でも、主人公の最終場面の台詞（船を降りない理由）は、
整合性が乏しく、聞いててあほらしくなった。
もう少しラブロマンスを膨らませても良かった気がする。
涙腺がゆるむことは一度も無かった。

結局、どこに行ってしまったのでしょう。

気になります。

美しいピアノの旋律、映像とともに語られる主人公の生涯は、
人間の織り成す「無限」の世界との相克の中で悲劇的な
最期を迎える。

それは、現代というひとつの時代をいきる人々にとって
普遍的ともいえる人生の主題としての孤独や寂寥感を、
芸術的な映像表現を通じて見る人全てに静かに語りかける。

人間として全うすべき何物かを丁寧に語り紡いでいくその物語は、
人間社会の複雑な広がりを目前にして立ちすくみ、彼自信の生涯を
船上で裁断することを選ぶナインティーン・ハンドレッドの姿を
圧倒的な非現実性とともに提示する。

その非現実性に込められた普遍的な真実こそがこの作品の主題であり、
それこそがこの映画の成功の要因なのだろう。

「語るべき物語と語るべき相手がある限り、人生は捨てたものではない」と
いうマックスのセリフは、この悲しい物語を癒し、見る者の心を融かす。

豪華客船の中で誰の子とも分からない産み捨てられた赤ん坊。
それを見つけた一番下の機械室で働く男達がみんなで隠しながら育てて行きます。
階級の低い、華やかな降板の上に出る事さえも叶わない男達の機械油と汗の中で優しさに包まれて成長して行きます。
少年になった頃こっそり覗いたパーティ会場のピアノの音に心奪われるのです。
驚く事に誰に教えられた訳でもなく人のいなくなった会場でこっそり弾いてみます。
気が付くと周りには彼のピアノに誘われて集まった大勢の観客の大きな拍手が…。
その後客船のピアノ専属となり、月日は流れて…。
一つの船と共に生まれて終わって行く悲しい神話です。

この物語は１９００年に船上で誕生した子供の生涯の物語です。
ジャズの演奏家が語りべになっています。本当に存在した人物であるかどうかは、
この話を聞いた人が勝手に解釈すればいいと思っています。
船の上で生まれ、その生涯を船の上で過ごした天才ピアニストの神話です。