アメリカのフォーク・ミュージックのなかに「フィドル・ミュージック」と呼ばれるジャンルがある。ルーツは18世紀イギリスの舞曲。それが新大陸に渡り、フィドル(バイオリン)が優れたテクニックを見せるスタイルに磨き上げられた。ヨーヨー・マはここでテキサスのフィドル奏者マーク・オッコナー、クラシックのコントラバス奏者・作曲家でさまざまなジャンルの音楽に精通したエドガー・メイヤーと協力し、弦楽トリオによるフィドル・ミュージックを作り上げている。
オッコナーは華麗な名人芸をたっぷり披露、メイヤーはコントラバスとは思えぬ軽快さでそれに応じる。ヨーヨーもリズムによく乗った演奏を展開し、3者の緊密なアンサンブルが実に見事だ。ヨーヨーは弓をふだんより短く、深く持っている。これはオッコナーの持ち方をまねたものだが、結果的にバロック時代の奏法に近づくことになった。ヨーヨーはこのときの経験が自分のバッハ演奏に影響を与えたことを認めている。(松本泰樹)