シュタイナーのテキストに触れ彼の思考の流れを注視することは、わたしにとって得難い体験である。だが、本書にある彼自身の思考の現実をそのまま受け入れることは到底できない。理由は簡単である。ヒトが神秘学のようなものに関心を持つのは今生きるのが苦しいと感じるからだが、進化した天使たちや神々もまた、さらに過酷な条件で苦しんち?いるように見えるからだ。これでは、階層宇宙のルールを学ぶことにどのような意味があるのかわからない。霊的に進化するだけでは苦しみについての智慧が生じないのであれば、高位の存在 (たとえばキリスト) が、進化の遙か後方を歩むわたしたち人間の動向に関心を持つのはなぜだろう。その理由を真剣に問いかければ、おそらくこの星で言う「宗教」の起源と意味が明らかになるだろう。
「概論」という表題にだまされてはいけない。シュタイナー神秘学の要点を要領よくまとめた入門者向けテキスト、という趣旨とは正反対で、きわめて網羅的でしかも高度な内容。講演録と書かれたテキストはやはり質的にまったく違うのである。手元に置き何度も取り組む必要のある貴重な一冊ではある。