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シューベルトの音符たち―池辺晋一郎の「新シューベルト考」

価格: ¥2,100
カテゴリ: 単行本
ブランド: 音楽之友社
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自分ならこう書くという例はおもしろいが……。 ★★☆☆☆
現代日本を代表する作曲家が、自分ならきっとこう書いてしまうだろうなあと「つまらない音楽」を書き、それに比べてシューベルトの何と美しいこと、と感嘆・羨望しながら書いているのがおもしろい。私も「シューベルトは絶対にアマチュアだ!」と思っている。
雑誌連載の合本だそうで、1篇1篇の書き方が行き当たりばったりであり、内容も充実している篇と雑談やマクラが多すぎる篇とが混在している。単行本化する際に改訂して、内容の密度を揃えるという考えはなかったのだろうか。

内容については、意外に表面的な通り一遍のことしか書かれていないので、シューベルト・ファンとしてはちょっとがっかりだ。
この歌曲王の歌曲を説明するのに、歌詞をまったく無視する「度胸」には驚いたが、「歌パートのフレーズは、ただ1回を除いてほとんど常にアウフタクト」であるのが「不思議といわざるを得ない」と言うほうが不思議と言わざるを得ない。リートは常に歌詞が先にあるから、歌詞の拍が弱強だったら音符もアウフタクトになるのは当然至極と思っていたから。こんなことに何行も費やすなら、もっと重要な、魔王とそれ以外の部分の伴奏形の違いの理由とか、子供の悲鳴が伴奏と歌とで全音で2つぶつける超不協和音になっていて、女声が歌うとほんとうに金切り声の悲鳴に聞こえることなど、作曲家として指摘すべきことは山ほどあるのにと思う。

「未完成」がロ短調であり、これ以前の交響曲にロ短調が存在しないことも、ただ不思議で片づけているのは解せない。音大で西洋音楽史をちゃんと勉強したのなら、ロ短調とか減7の和音(音程)が、バロックからベートーヴェン〜ロマン派に至る西洋音楽史上の重大テーマであることを、絶対に知っていなければならない。「冬の旅」の第9曲「鬼火」と第12曲「孤独」もロ短調だが、素通りしている。前の「魔王」で子供の口から出る「魔王」と言う言葉は減7の和音で伴奏されている。

さらに言えば、シューベルトの音楽で大事なのは音符よりも休符である。曲末に休符をつけたり、それにフェルマータをつけたりする作曲家は稀だろう。歌曲でも歌と伴奏が同調して進みながら、最後に伴奏が休符で歌声だけ残したり、その逆に伴奏だけ残したりをひんぱんにやっている。「菩提樹」の初校を死の床で校正した際、4分音符をやめて8分音符+8分休符に直したりもしている。シューベルトの音楽は、このような休符(静寂)の凄味が、極彩色の描写や流麗なメロディーと見事に対比されているのが魅力だと思うのだが、本書には休符についても、音楽による描写についてもまったく言及がない。

著者は音楽は音以外の何者でもないという「絶対音楽観」を持っているようだが、すべての作曲家をそのような目で見、分析することは不可能だと思う。特にシューベルトは……。

最後に個人的なコメントを。181頁の5度圏図は英語らしいが、クラシック愛好者・研究家には違和感がある。ロ短調は「ビーマイナー」でなく「ハーモル」、ロ長調は「ビーメジャー」ではなく「ハードゥア」で慣れているので。あと、連弾で最も有名な「軍隊行進曲」を挙げるのはいいとして、「幻想曲」D.940という最晩年の大傑作をぜひ取り上げてほしかった。そうすれば、シューベルトの歌曲の伴奏が、譜面が簡単に見える割に非常にむずかしいのは、手が2本では足りないような書き方をされているからであるのがわかったと思うのに、「ピアニストという人種はすごい」と感嘆しておしまいでは、あまりに能がなさすぎる。
なかなか興味深い・・・・・ ★★★★☆
 どうもこの国のクラシック・ファンは、「名曲名演」のCDを集めたがる人が多いようです。でも名演奏より、まず「名曲」を知ることではないでしょうか。レコード会社に乗せられ、いろんな演奏家の「未完成」のCDを集めるよりは、スコアのことが少しでもわかった方が、もっと楽しめるような気がします。
演奏者には楽しい本 ★★★★★
演奏経験のある人には、間違いなく楽しい本である。沢山出てくる譜例を実際にピアノで弾いてみると、著者の言わんとするところがよくわかるはず。単なるアナリーゼではなく、作曲家としてのお遊びが入っているし、話が時々脱線するのが楽しい。こういう講義なら学生も喜んで聴くだろう。世の音楽教育者は心して読むべし。

連載モノだったので、ところどころ強引に端折った部分があるのが惜しい。もっとじっくり薀蓄を傾けて欲しいなと思ったが、これは無いものねだりか。中では「冬の旅」が圧巻である。機会があれば、「冬の旅」全曲を徹底的に解剖して欲しいのだが・・・・