治安維持法に倒れた三木の遺作が『親鸞』であり、処女作が『パスカルに於ける人間の研究』である。
　『パスカル〜』の最終章で宗教を論じた三木が、人生の最後で「親鸞」を選んだことは円環をなしているようで面白い。しかし『パスカル〜』と『親鸞』には決定的な違いがある。それは「歴史性」の問題である。
　「歴史性」を説明することは難しいが、「歴史性」とは過去・現在・未来を総括的に把握することだといえると思う。そして三木は『親鸞』を通して「歴史性」を描こうとしたが未完のままこの世を去ることになった…。
　本書には『親鸞』のメモや師である西田幾多郎との対話が収められている。これらの資料を通して三木哲学の発展そして未完に終わった『親鸞』の完成図に思いをはせるといいだろう。