兵頭氏の2003年当時の切り口として
★★★★★
2009年の現在、兵頭氏の核武装に関する持論は
大幅に変化しているが、それでも本著は読む価値があると考える。
数値や技術的な考察については色々と異論が出ると思う。
しかし、そもそも核兵器というものは、非保有国にとって
その運用計画立案、核技術諸々の経験値や暗黙知において
保有国に到底及ばない絶対的な敷居が存在するものであり、
保有国が公表分のデータですら色々と含みがある。
良くも悪くも非保有国、日本の現実の一部というワケだ。
本編もさることながら、巻末付録の筆者による「核戦争関連年表」
は実に面白い。
「この年表は、ある技術的な出来事が、ある政治的な出来事と関連
している場合があることを示唆しようとするものである。遺憾なことに、
月・日の不明、配列の前後転倒がある。ご海容を乞う。」とある。
かつて日本が鎖国を選択できた時代、世界史の上では様々な事件
が起こり、国家や人間集団の興亡があった。
それらの余波は、後世の我々が既に識るように日本を否応なく
洗った。
長岡半太郎の原子模型(1903年)から100年。
日本人にとっては、2回の核攻撃を受けたことすら
「黒船」の衝撃に値しないのだろうか?
この年表を眺めているとそんな感慨を覚える。
日本人は養鶏場のニワトリであることを即刻やめ、
自分の頭で誰が日本人自身を護るのかを真剣に考えるべきである。
冴え渡る兵頭節。日本が好きならコレを読め。
★★★★★
日本が国家としてサバイバルする唯一の道と副題が付いたこの本は、外国が日本を核によって先制攻撃しようと思わせないための唯一の、かつ一番「安全・安価・有利」な方法が核武装であることを説明している。あまり買う人もいないと思うので、キーポイントを抜き出してみる。
1.最大の矛盾は、経済大国でありながら軍事大国にならぬ路線だといえる。なぜなら、経済大国は貿易を妨げられない武力を持たないと自存も自衛もできないからである。
2.法律の壁はない。NPT(核兵器不拡散条約)第10条によれば、日本は合法的にNPTを脱退できる。
3.核開発は国家の生存のためにするのであって、(中略)その決意もできないのならば、その国は、核爆弾を必要としていないのか、さもなくば、生存する資格が怪しいのである。
5.抑止を願う文明国の側こそが、威嚇すれすれの熱心な軍事力誇示を不断に継続しなければならぬ。
6.核武装しないことが「危険・高価・不利」な政治選択となるのである。日本人に特有の無戦主義では、近代の野蛮な世界で生きていけない。核武装について国民全体を納得させるのは全体主義であり、民主主義的な手続きでおおっぴらに核武装を始めるだけで安価な抑止力になる。
巻末には80頁に渡る核に関する年表が記載されている。すべて読破して理解するのはかなりの苦労がいる。兵頭氏は本文よりこの年表のほうを読んで欲しいようだが、それは今までの我々ではまだまだ難しいだろう。
文民のための核兵器論
★★★★★
軍学者、兵頭二十八氏による、核武装肯定論。
核武装するための技術的ハードルや、広島長崎に落とされた原爆
の詳細な威力など、政治的な書籍中心に読んでいると
理解しにくい知識も仕入れることができる。
一般の方々の核兵器に対するイメージは、「地球を〜回滅ぼす威力」
「核の冬で人類滅亡」などの、漠然としたものがほとんどだろう。
核兵器の真の威力と限界を知らずには、核武装に関して議論は出来ない。
本書は、難しい物理の話は出てこないので、理科的な知識が乏しい
と自覚している方にも詳しいイメージを与えてくれる。
(兵頭氏の文章は核兵器論に関わらず難しい言い回しが多いので、その点は注意。)
兵頭氏はここ数年、技術論的提言よりは、真に優秀な「人間」のための啓蒙、
意識の改革に重きを置いて発言してきた印象がある。
その言論に影響を受けた人間が出現してきた時、本書の内容は役に立つだろう。
そんな日が来れば、の話だが。
それと、巻末の核兵器開発に関する年表は素晴らしい。
これを読むだけでも核に対する印象が変わるのではないか、と思う。
最早、核武装論議はタブーでは無くなりました
★★★★☆
本書は2004年1月の出版当時から、中国の核の脅威のみなら
ず、北朝鮮の脅威をも訴えます。通常兵力の劣る両国は共に核を
専守防衛ではなく専制攻撃を前提に開発を進めている警告します。
戦後60年経て昨今、内外の環境変化から日本も漸く核武装を論議
できる雰囲気が徐々に醸成されてきました。中川政調会長の発言
があったように、最早核武装論議はタブーでは無くなりました。
著者は、外国が日本を先に核攻撃しようと思わせないための唯
一の方法であり、安全・安価・有利な一番の方法が、核武装だと断
言します。核武装を正面から見据え、日本の取るべき道筋を論ずる
一書としてお勧めします。
脱原発主義者こそ読むべし
★★★★★
兵頭氏の前著「ヤーボー丼」を、更に時代に適応させて、全面的に書き改めた一冊と
言える。
この本の提示する恐るべき事実は、第一に、日本は今すぐにでも核武装できるという
こと、第二に、核武装が最も経済的な選択であるということ、第三に、稼働中の原子炉
の知られざる一面は、原爆製造工場であるということである。
特に、第三の点は、知られていない事実である。原発以外でもエネルギーの確保は可
能だという論拠では、脱原発は為し得ない。防衛問題も絡めて、広く深く論じなければ
脱原発は為し得ないことを教えてくれる一冊である。