ボルヘスのことはボルヘスに聴け!
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ボルヘスは二十世紀の世界文学を代表する作家のひとりですが、詩や短篇小説やエッセイといった著作の大半が高踏的かつ観念的で晦渋なことでもあまねく知られている。
私の読んだ範囲では、本書が非常にわかりやすいことばでボルヘスの思想の神髄を語り明かしていたと思う。晩年のボルヘスが、1978年6月にアルゼンチンの大学でおこなった連続講演の記録。言語、書物、不死、探偵小説、時間、――ボルヘスの作品を読み解くキーワードというべき重要項目を取りあげていることに興味をそそられる。
《言語活動というのは創造的行為であり、一種の不死性になるものである。わたしはスペイン語を使っているが、そのわたしのうちには無数のスペイン語を用いた人々が生きている。わたしの意見、わたしの判断、そんなものはどうでもいいのだ。われわれがたえず世界の未来のため、不死性のため、われわれの不死性のために惜しまず力を尽くしてゆきさえすれば、過去の名前などもはやどうでもいい。その時の不死性は個人的なものではない、偶然現れてくる名前や姓、われわれの記憶などなんの意味もないものである。》
《古い書物を読むということは、それが書かれた日から現在までに経過したすべての時間を読むものである。》
なかんずく、私は、ヘラクレイトスの「人は二度おなじ河の流れに降りていかない」という格言の引用に共感を抱きました。木村栄一先生の訳文は総じてこなれていて読みやすい。もし未読であれば、特に初学者のみなさんにお奨めしたい一冊。