海外の江戸文化の研究者が挑んだ江戸という都市の解明
★★★★☆
良く知っている江戸時代の捉え方とは全く違うアプローチが新鮮で、読み飽きることがありませんでした。近世の江戸の町の形成について、「日本橋」を象徴として捉えて「渡彼岸」の観点から「黄泉の世界への入り口」などという観念は初めて見聞きしました。当時の図版も使用しながら橋と富士山と江戸幕府の権力について論じたあたりも目から鱗のような新説でした。近世史の研究者も一笑にふすのではなく、しっかりと受け止めるべき見解だと思いましたが。
筆者のスクリーチ,タイモン氏は、ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院教授で、多摩美術大学客員教授。専門は日本美術史、江戸文化論ですから、本書の記述も実に詳しいもので驚きました。ハーヴァード大学大学院美術史学博士号取得というキャリアですから当然かもしれません。訳者の森下正昭氏は、セインズベリー日本芸術研究所共同研究員の方です。
江戸の町の鬼門と裏鬼門の点から浅草寺や寛永寺を論じ、上野大仏の存在に着目しながら秀吉の方広寺の大仏の意味合いとを比較したり、吉原通いについて多面的に考察している学識の深さに驚きながら読了しました。
まえがき 江戸の再発見
第1章 日本橋、道の始まり(橋の建設、詩歌における橋と文化、仏教における橋と文化、実際の場所としての日本橋、日本橋の周辺)
第2章 新しい京・江戸(京に匹敵する江戸、その他の名所、大仏)
第3章 江戸聖地巡礼(江戸の宗教地図、裏鬼門、久能山と日光、開帳、五百羅漢寺)
第4章 歌枕を求めて(定まらない名所、富士山、伊勢物語、梅若丸)
第5章 吉原通いの図像学(橋、建物と樹木、宗教的な意味、日本堤、四季と伝説、時の操作、吉原の中で、家路)
あとがき、参考文献
外国人著者のいいところが出ている
★★★★★
「江戸の大普請 徳川都市計画の詩学」はタイモン・スクリーチの現在の東京の母体となった江戸がどのように計画され、作られてきたのかを綿密につづった佳作である。日本橋では全国の道の計画とその思想の元となる「橋と道」の文学的意味を解説する。そして江戸は新しい京として名所を人工的に作り出してゆく。またよく指摘される江戸都市計画の宗教的位置づけ、など都市の意味合いと詩歌の関係など興味深い指摘が続く。江戸城天守閣消失後に再建しなかった事、中心としての日本橋、東海道と品川など外国人著者のいいところが出ているように興味深く思います。著者が凄いのか、翻訳者と編集者のフォローがしっかりしているのかとにかくよく江戸を分析しているのには驚かされます。推薦します。