それでも、日本の統治時代を肯定的に評価する人が多いときけば、日本人として複雑な気持ちを抱かざるをえない。同じように植民地化された朝鮮半島や中国の人々の厳しい態度を考えると、不思議な話だ。
1987年に来日し、日本と日本人をよく知る謝雅梅は、台湾人の立場から台湾と日本と中国の複雑な関係と、そこにからむ感情を見事に解き明かしてくれる。
台湾は日本と中国の戦争に翻弄された国である。中国の領土ではないのに、日清戦争後に日本に「割譲」され、第2次大戦後はいつの間にか中国に「返還」された。この歴史的経緯からすれば、「台湾は中国の一部」という中国の主張は間違っていると著者は言う。中国本土から多くの人が流入したこともあって、台湾の人々のアイデンティティーは確立しにくい状態にある。それでも台湾は台湾人のものだと著者は主張するのだ。
日本と台湾の関係は、この問題と微妙にからんでいる。一部の日本人と台湾人の精神的なきずなは驚くほど強い。日本語教育を受けた台湾の人々はいまだに日本を懐かしみ、日本の文化を尊重している。また日本にも台湾を懐かしむ台湾生まれの日本人がいるという。
近い国のことは意外に知らないものだというが、台湾は精神的に世界で一番日本に近い国なのかもしれない。政治や歴史、経済問題に興味のある人だけでなく、台湾に旅行するだけの人にも一読をすすめたい。台湾の人々がより身近に感じられるはずだ。(栗原紀子)