儒教の入門書として
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大学時代、「東洋思想史」という講義をとっていた折、先生が儒家の方で、「儒教は親孝行、仏教は出家」という違いについて教えて頂いたことがきっかけで、儒教に興味を抱いたので、まずはという形で、本書を手に取っていました。
本書は、聖人孔子が弟子たちに残した名句(それが編集されたのが『論語』)を幾つも散りばめ、それに対して筆者が優しく解説してくれます。「人間の道徳生活の奥儀」とされる『論語』ですが、孔子の言葉は本当に、いつの時代でも普遍的な、人間の道徳的な在り方を指し示してくれます。人間のむごい欲望の存在や、他者を憎んでしまう気持ちを肯定しつつも、道徳のもとに精神的な生活をし、「仁」を求め、学問に従事することの重要さを説きます。世界や人間に対する、綺麗言でも罵言もない、当たり前のようで非常に奥ゆかしい、本質的な意味で素晴らしい言葉の数々です。プラトンをはじめとする西洋哲学的な人間を超えでたものへの思想ではなく、常に主題は人間そのものであり、本書は無理に小難しく物事を思考して、そんな自分に無意識的にせよ何処かしら悦に浸っていた、無様な大学時代の私の眼を覚まさせてくれました。
新書という読みやすい形で、本書は『論語』を始めとする儒教の入門のために非常に有益です。新書という形式のレビューでは満点。
35歳にして読み終えることが出来ました。
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この本に出会ったのは大学生の頃。当時、哲学科の大学生だった私は、中国哲学の講義に出席するために、大学の哲学会に置いてあったこの本を失敬した記憶がある。
「論語」を味わうにはその頃の私は、非常に未熟で、申し訳なくも軽んじ途中で放擲してしまい、そのままにしてしまった。
爾来15年…、地元の書店では全く見かけなくなってしまった、貝塚版「論語」であるが、どうしてももう一度手に取ってみたくなり、アマゾンで購入することとなった。
岩波版(金谷訳)で初めて通読し得た私は、論語の円珠経とも呼ばれるその見事なバランス感覚に感動し、講談社学術文庫版(加地訳)も購入し再読した。
そして今回、学生の頃に手に取った分厚いこの本を、もう一度手に取り、その含蓄の深さに引き込まれてしまった。同時に、私の記憶にあった論語の授業における苦い思い出もよみがえった。貝塚先生の斬新な読み方を、大学の授業でよみあげ、「全く違うわ!」と担当教授からしかりとばされたことがあったことを。
今から思えば、「論語」に様々な解釈があることすら知らずにいた私は、それいらい「論語」になど見向きもしなかったが、この中年にいたり人生の壁に遭遇し、再び出会うことが出来た。不思議な縁である。なぜ「論語」の言葉は心に響くのか?単なるいい言葉ではなく、孔子の背負った理想と挫折の深みがあるからだろうか。座右の書として論語が手放せなくなってしまった。
貝塚『論語』の第1弾は、中国史学者の目線で書かれた入門書として傑作です。
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著者の貝塚茂樹先生は、中国古代史を専門とされた東洋史学者ですが、中国近現代史にも明るく、その教養の広さにおいては同じ京都学派のメンバーであった桑原武夫先生と双璧をなすものだと思います。また、貝塚先生は、地質学・地理学者の小川琢治氏の次男に生まれ、ご兄弟に冶金学者の小川芳樹氏(長男)、ノーベル賞物理学者の湯川秀樹氏(三男)、中国文学者の小川環樹氏(四男)持つという、アカデミックな環境で成長されたことが、幅広い教養の背景になっているのだと思います。
先生の著作には2種類の『論語』があり、『論語―現代に生きる中国の知恵』が最初の作品にあたります。こちらは『論語』の訳注と解説に重きを置いたものではなく、中国古代史学者による『論語』の入門書というべき作品ですから、2作目の全訳注『論語』(中央公論社)と比べて低い評価を受けています。しかし、2つの作品の訳し方や解説の内容は異なるものであり、書かれた経緯から考えても優劣を付けて済ますこと自体が誤りであり愚昧なことなのです。
2つのの作品を読み比べることによって、『論語』の全訳注をすることになった著者の考え方の変化と、『論語』に対する思索の一端を垣間見ることができる貴重な資料でもあると思うのです。これは、『論語』を学ぼうとする者にとっての道しるべであり、良い手本になると思います。2作品を読み比べられることをお薦めします。
ベストセラー
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岩波文庫の「論語」と中公文庫の「論語」の二つを持っている。
岩波文庫のレビューでも書いたが 論語は 日本でも屈指のロングセラーである。何しろ1000年以上にも渡って読み継がれてきている。数ある中国の古典でも 最も知られている本だと思う。
論語を実際に読む機会を得ない人も多いと思う。中国の古典なぞ とっつきにくいと思う方も多いと思う。しかし これははっきり断言できるが 論語の面白さは その読みやすさにある。
文章は短いし 書いてある内容は そのまま現代に通じる。どの時代でも通用してきた内容だと思う。具体的だし 時に孔子のユーモアに感心させられる。
世界で見回しても これほど読まれている本は 他には聖書やコーランくらいしかないのではないか。しかも 宗教の本ではない。それが凄いと思う。
詳しい注が興味深い
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ふりがな付きの,書き下し文と,漢字だけの原文,日本語訳があって,そのあとに,キーワードについての解説,さらに数行から数十行の注釈がつく。
この注釈こそは,中公文庫版で『論語』を買うことのチャームポイントだ。
古注と朱子の新注を参照にした,バランスのとれた注釈は,論語を理解するのに必要な古代中国史に関する知識などを与えてくれて,短いものの,たいへん参考になる。
これさえあれば,吉川幸次郎さんの上下本を買ったりしないでもいいと思う。
岩波文庫版は,索引がついているのが,思いのほか便利であるが,原文,書き下し文,日本語訳の三つだけで,いっさい用語解説も注釈もないシンプルなもの。岩波文庫版と中公文庫版,二つ揃えていれば,意外に訳者によって異なる日本語訳を比較するのも興味深いし,有益だと思う。