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「文明論之概略」を読む(中) (岩波新書)

価格: ¥882
カテゴリ: 新書
ブランド: 岩波書店
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すばらしい ★★★★★
この上巻は「文明論之概略」の4章から7章までをカバー。読み進めてはまた戻り、という具合に少しずつ数ヶ月以上かけて読了。上巻同様解説は丁寧で濃密。原文を読んでも現代人には到底理解の及ばない箇所の解説に「なるほどそういうことか」と膝を打つ思いを数々させられた(例えば道徳と法律に関する章など)。

文明とは社会全体における知徳の総和である、つまり聡明な人がところどころにいるだけでは文明社会であるとは言えない。一人一人を見ると知恵もたいしたことはないが優れた組織を作れる社会、知恵のある人もいるがそういう人が力量を発揮して優れた組織のうまれない社会、この両者の違いをつくるのが社会の「気風」だとして、その気風がどう産まれ、どう作用するのか、というくだりは維新期だけでなく今でも通用する考え方があると強く感じた。さらに、その気風が歴史を動かしもするのだという論旨は痛快。
碩学が薀蓄を傾けた見事な解説 ★★★★★
福沢の作品は、西洋近代の全体像を、やさしい言葉で日本人に紹介したものが多い。福沢を「近代日本の小学校教師」と評した人がいたが、それは的を得た批評であった。しかし明治以来130年、日本人は本当にこの「小学校」で習ったことを本当に自分のものとしてきたのだろうか。確かに日本は巨大な発展を遂げたが、同時にどこか根本的におかしい点を抱えているのではないか。こうした疑問はバブル崩壊以後の日本人の念頭を去らないものだろう。

長期的な視点から日本の今後を見据える上でも、「文明論の概略」という近代日本の古典に一旦もどることが必要なのではないか。そんな気が私にはしてならない。そしてその場合の助けとして、本書ほど適当なものはない。丸山の解説は原著の2倍以上の長さがあるが、そこには無駄はない。丸山は、我々が何気なく読みすごしてしまいがちなちょっとした議論や表現を手がかりに、本の書かれた時代背景、何気ない表現に含まれた深い意味を見事に解き明かしていく。私は「文明論の概略」は以前から読んでいたし、また丸山氏の所説や思想に賛成しかねる点もあるのだが、氏の解説を読んで「そうだったのか!」と教えられる点が非常に多かった。公平に見て見事な解説だというほかない。

元来、読書会での談話録として出来上がった本だけに、丸山の著作としては比較的読みやすいのもありがたい。古典を深く読むというのはどういうことか、碩学から直接学べる有難い本である。