「幻景」から小説の心髄へ
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サブタイトルにある通り、この本は「文学散歩」のジャンルに入る作品です。
しかし、作者は「幻景の街」とタイトルを付けている様に、文学作品の舞台となった場所をエッセーとして纏めるというような平面的な作品には満足していません。作者は現在のその場所を観察しながら、作品の舞台になった時代を蘇らせて、それを「幻景」と呼んでいます。
そうした「幻景」を表現することは、すなわち、その作品の本質に迫るものとなっています。実際、ここに取り上げられた明治・大正・昭和の17作品の中には、全く知らなかった作品も入っています。でも、この本を読むとその作品の本質が理解でき、読んだ気にさせてくれます。或いは、探して読んでみようと言う気を起こさせます。又、以前に読んだ本であっても、もう一度読み返したくなる、そんな一冊です。
<取り扱われている作品>
*明治・大正*
「幻燈」(大佛次郎)「雁」(森鴎外)「たけくらべ」(樋口一葉)「照葉狂言」(泉鏡花)「武蔵野」(国木田独歩)「東京の三十年」(田山花袋)「三四郎」(夏目漱石)「すみだ川」(永井荷風)「あめりか物語」(永井荷風)
*昭和*
「むらぎも」(中野重治)「浅草紅団」(川端康成)「美しい村」(堀辰雄)「夫婦善哉」(織田作太郎)「武蔵野夫人」(大岡昇平)「忍ぶ川」(三浦哲郎)「橋づくし」(三島由紀夫)「なんとなく、クリスタル」(田中康夫)