残り火
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1996年に亡くなられた武満徹さんに捧げられたミニアルバム。とはいうものの、作曲はすべて武満氏の曲で、歌詞も2曲は彼の書いたものである。全5曲だが、その後にすべてのインストナンバーが収められており、ある独特の静謐なムードに貫かれたアルバムだ。それにしても石川セリさんの歌声は、まるで若い頃と変わっていない。癖のある歌唱法で決して上手いわけではないのに、とても凛としていて真っ直ぐな気持ちにさせられる。きっと生前に武満氏が愛されたのもその部分ではないかと思ってしまう。追悼アルバムは数あれど、これほど本人が生きているかのごとく発表された追悼アルバムは非常に珍しい。それくらい武満氏がこのアルバムに同居している。
静かな自然の中での研ぎ澄まされた孤独な感情
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昔、NHKでドキュメンタリー番組があって、武満さんの奥さんがアルプスの山荘にギターの壮村さん、谷川俊太郎、小室等を集めて、武満さんの想い出を語るような番組がありました。20世紀の年寄りのわては、その山荘でギターで弾かれた
「森のなかで」と「MIYOTA」の静かな自然の中での研ぎ澄まされた孤独な感情、に心打たれました。
ほいでほれから、前者は鈴木大介氏の武満ギター作品集成というアルバムで愛聴して居るんですけども、「MIYOTA」の方は、これまた独特のエキゾチックな、怜悧ながら豊かな感じのする石川セリさんのお歌の方も、山荘での荘村さんのギター伴奏に負けず劣らず、根底にある冷めた、内向的な武満さんの心情描写がよう表現されとる。武満さんが音楽ジャンルにエエ、悪いはない、といわれとったのが分かる録音。
シャンソン風で、武満さんには珍しく濃密な感じのする「燃える秋」、限りなき自由を歌った伸びやかさが心地よい「翼」「小さな空」は作詞も武満さんがやられとる。ベートーヴェンやマーラーが歌曲の歌詞の一部を捕作したのに通じますわな。
「死んだ男の残したものは」、は歌詞の社会性が鋭く、現代にも通ずる。できればエエ再生装置で聴いていただきたいミニアルバムですわな