スリリングであるが、少々取っつきが悪く、難しい! 或る程度思想的な関心の高い人向け!
★★★☆☆
本書、前半は禅宗の中興の祖、白隠禅師の研究では目下第一人者である芳沢勝弘氏の講演、後半が地球学の松井孝典氏と、カオス工学の合原一幸氏を交えての鼎談。芳沢氏の講演は、白隠の「禅画」を今日の問題意識から鋭く切り取ってきて、その思想的背景に肉薄する力の入ったもの。白隠の禅画をただ面白いものとしてみるのでなく、執拗に細部に注目しながら、白隠が伝えようとしたメッセージをあぶり出してくる解釈は、かなり斬新で、読みでがある。白隠が活躍した当時の歴史的な状況をしっかりふまえながら、そのメッセージが現代思想の問題意識にもしっかりとつながってくるという氏の主張は、白隠が単に禅宗(臨済宗)という一教団のセクト的な存在ではなく、また江戸時代という歴史的な枠に収まってしまうのでもなく、今日においてもなお対決するべき普遍的で広い射程を持つ本格派の思想家であったというもの。こうした切り口は、かなりスリリング。ただ同時に、本書を読むと、白隠禅師の研究自体がまだかなりお粗末な状態で、本当の対決はまだまだこれからだという現状がかいま見える。本書の、特に後半の鼎談部分での難しさ、歯切れの悪さはもっぱらそうした事情によるところが大きいであろう。要するに、目下白隠研究は思想的な内容にまで立ち入って或る程度クリアーに話の筋道をつけるには、まだまだ素材も、議論も足りず、未消化であり、成熟していないのである。だから後半の鼎談、理科系の科学者を相手のものであるために、話が今一つ噛み合わず、ゴツゴツする。それ故、読後感は今一つ。しかし、これは問題の大きさのためであるということもできる。宗教と科学とが思想、あるいは世界観、あるいは別の言葉で言えば哲学というフィールドで衝突しているのであるから。そう見ていけば、本書、面白い問題提起が幾つも見いだせる。