空海の思想の正当で安価な学術書
★★★★★
日本の仏教を学ぶなら空海は知るべき人物だと思う。
彼は、中期密教を昇華させ、高い倫理観と思想性のある真言密教を確立した。
その彼の思想を手軽な値段で正当に学ぶことのできる書だと思う。
私は、聖書も学んでいるのでふとこんなことも思う。
彼の語る大日如来はキリスト教の神を思わせ、即身成仏はまるでキリストと神の一体性に似ている。
一見、全く違うかに思われた仏教とキリスト教にも既成概念を外せば多くの類似点を発見できると。
謎めいた深い体験と思索の成果
★★★★★
初期に伝わった仏教は、鎌倉期から江戸期を経て現在に至る、日本化された仏教とは、何か本質的に異なる世界観、自然観、宇宙観に基づいたものであった様な気がする。輸入された儘の原典とでも言える諸経典には、未だ加工されていない、日本人の精神構造とは異質な、文化的背景を持つ、外国の(インド・中国)世界観・自然観・生命観が在ったのではなかろうか?
空海に至って初めて、それを日本的に解釈した。だが、その解釈に於いても、少なくとも現在のルーチン化された、仏教とは根本的な所で異質な物が在ります。
空海の自然観・生命観・宇宙観がどの様な物であったかは、この二冊に収められた論・散文・詩歌が物語っている。その為の代表的な基本テクストが揃っています。勿論本格的な弘法大師全集はありますが、小生ような浅学非才には歯が立たない。この「空海コレクション1・2」には、般若心経秘鍵・秘蔵宝鑰・弁顕密二教論、十住心論、などの、空海の代表的な著作論考が揃っている。また、今日、最も興味深い論考であろう、「声字実相義」と「吽字義」が入っている。
恐らく空海は、世界を必死で理解しょうと努め、山野に伏す荒行で体力を使い果たし、精神を極限状況の中に追い込み、その連続の中でこころを純化して、生命の原初を体験出来ると信じた。生きるか死ぬかのスレスレの状態まで持って行き、そこで体験できるものを熟知しょうとしたのでしょう。
彼の、密教修行の目的の中には、「世界の在り様は知れるだろうか?、人間とは何か?、それの持つ理解力は、体の外に広がる世界と、この内なる自然の本質にどこまで迫れるか?、外部世界とは、幾つかの感覚器を通じて、どの様に構成されるか?その時に言葉は如何なる機能を持ち得るか?いのちとは何か?命の始まりは、認識により辿れるか?命の始まりに、この心と言うものは、どう生み出されるのか?命の終りに、この心は、どう消えてゆくのか?、この広い宇宙とこの儚い命は、どの様につながっているのであろうか?」こんな事をきっと何時も、深い思いの中で反芻していたに違いない。
そのような探求の結果を、慎重に人間の言葉に翻訳していった成果が、空海の論文なのであろう。この二冊の内容は、永い思索と瞑想の中から得た体験が発酵した密教世界からの報告と言えるものでしょう。
どう考えてもお値打ち品。こんなんアリなの?
★★★☆☆
空海最高の美文といわれる「秘蔵宝鑰」が収録されているので購入。文庫本は傷み易いので出来るだけ買わないのですが、今回は文庫本故のあまりの安さに寝返り。
「秘蔵宝鑰」は「秘密曼荼羅十住心論」の精髄を略述したとされていますが、文豪空海ですから「十住心論」に余分な言葉など無かったはず。別に著す意味があったはずなのです。まそんな事より、美文を味わうのが目的なんですが。ジュルル。
「弁顕密二教論」も収録。ちなみに「空海コレクション2」は「即身成仏義」「声字実相義」「吽字義」「般若心経秘鍵」「請来目録」を収録。今まで色々探し回ったのは一体何だったんだろうって程のお値打ち品です
綺羅星の如く
★★★★★
正直言って、20代の頃、司馬遼太郎の「空海の風景」を読んで、空海のファン(失礼な言葉に聞こえるかもしれませんが)になりました。まだ、就職したての貧乏なSEだった頃、シリーズの名前はあやふやですが「弘法大師全集」を買い揃え、時間を見つけては読みふけった記憶があります。当時は1巻当たり1万円近くしたように覚えていますが、それが文庫本で読めるときが来るとは夢みたいです。当時買った「弘法大師全集」も幾多の人生の苦難から売り払ってしまいなくなってしまった今、この文庫化は非常にありがたいものです。
再度、空海に向き合えるという喜び、20代と違った40代の私が空海とどう向き合えるのか、20代の頃と同じく、完膚なきまでに叩きのめされるのか、あるいは40代から見た空海が青く見えるのか、非常に楽しみです。おそらく、完膚なきまでに叩きのめされるに違いありませんが・・・
空海和尚
★★★☆☆
空海の主著「秘蔵宝鑰」と「弁顕密ニ教論」が書き下し文と訳注が付いている。ただし、語釈はあまり親切ではなく意味が取りづらいところも結構見受けられた。密教の基礎知識があればよく分かるのだろうが、初心者には少しお勧めし難い。
しかし、空海のあの美しい文章はやはり魅力的だ。
三界の狂人は狂せることを知らず
四生の盲者は盲なることを識らず
生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く
死に死に死に死んで死の終りに冥し
永遠の輪廻転生に対する深い嘆きの言葉。空海は少し詩的な感じがする。
概要や要旨が文の始めにあるので、それなりに理解は出来る。空海の主な著作が文庫で読めるので、画期的である。