映画化して欲しい
★★★★★
再生とそれには結局愛が必要なのだ、と納得させられる重厚な物語です。この作品を読んで初めてリタ賞作品、というものの価値に納得しました。
アイルランドの反政府戦士として、言葉にできない壮絶な過去を背負い心に深い傷を負った
コナー、何もかも失った自分の価値は見いだせないまま、それでも自ら死を選ぶことは
「負け」ることだと、憎しみを糧にして、流しのボクサーの生活をしながら、内実は生きる
抜け殻になっています。
ぼろぼろの彼を「拾った」オリヴィアは、何もかも失っても前を向いて生きて行く事を
躊躇しない女性ですが、世間体にオールドミスである自分の女性としての価値を、
これもまた認められない葛藤があります。
設定としては、読む前にちょっと引いてしまう印象があったことは否めません。
それでもガークの他作品を先に読んでいたので、彼女の力量を期待して読み始めました。
途中、コナーの過去の挿入話には、胸が痛くなり、読み進めずページを閉じて
しまう事もありましたが、読み終わって、この湧き上がる感情は、是非多くの読者の
方々にも感じてもらえるものと信じます。
すべて奪われて、信じるものは何もない、しがみつく名誉もない、と言うコナーに
「だったら私にしがみついて。
あなたが自分を信じられなくても、私があなたを信じる。あなたの碇(いかり)になる。」
と受け止めるオリヴィアに愛の強さを感じました。そして、人と人の間には、
やはり愛が必要なのだ、と痛感。
すばらしい作品、と言わざるを得ません。
大人の愛の物語です。
大満足! 家族の物語
★★★★★
ボクシングの八百長を断ったために、賭けの胴元から袋だたきにされ、うち捨てられたヒーローと、そんなヒーローを助けた(拾った)ヒロインのお話です。
ヒロインは、29歳でありながら、親友が残した14歳を筆頭にした3人の娘を育てています。南北戦争で親兄弟を亡くし、廃れていく農園を何とか切り盛りし、娘達と身を寄せ合うようにして暮らしています。少々堅苦しいですが、愛情豊かなヒロインです。
一方のヒーローは、故郷アイルランドでの過酷な経験を経て、逃げるようにアメリカに渡り、流れのボクサーとして暮らしていました。英国の圧政、飢饉、反逆と拷問..大切な家族を次々と亡くしたヒーローは、ヒロインの家に身を寄せながらも、「家族の一員」になることを恐れ、頑なに家族を拒もうとします。
そんな彼が、ヒロインに癒され、何よりいつの間にか娘達の「父親」になっていく様は、心温まるものがあります。問題部分の解決は、なんともあっけないとも思えるものでしたが、それでも久々に良い作品を読んだなという気持ちです。
愛で包んであげたくなるヒーロー
★★★★★
オリヴィアは心優しく温かくて芯の強い、
愛する家族のために重労働も、闘うことも厭わない女性。
コナーはアイルランドで壮絶な幼少時代を過ごし、
反政府組織で活動したことにより投獄され拷問を受けた過去に苦しんでいます。
過去から逃げるために各地をボクサーとして点々として生きてきたコナーは、
オリヴィアの優しさに触れ、安堵と恐怖が混ざり合った感情に混乱。
少しずつ、少しずつ恐怖に打ち克ちオリヴィアの優しさを心に浸透させる過程に、
気持ちが優しくなれる物語でした。
原題「Conor's Way」リタ賞を受賞しただけあって、読み応え抜群でした。