セザンヌに音楽を聴く
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すばらしい絵画論です。日本の浮世絵を通した絵画の革新が流行していたパリで(つまり印象派)、流行から一歩引いて孤高のうちに西洋絵画の革新を模索していた「孤独な魂」(その名はセザンヌ)の奇跡。モノの輪郭ではなく中心の動きを、形よりも色彩を、と移行していったセザンヌの絵画を、まるで本人に聞いたみたいに、その核心ごとわしづかみ。「絵の専門家ではないので先行研究への目配りは手に負えない。自分の目で見ることに集中した」と言ってはいますが、外国語文献を自分で訳してしまう本職顔負けの博学ぶりです。文章もうまい。
遠近法、パースペクティヴ、シンメトリーといった西洋近代絵画の基本を完成させたうえで革新するセザンヌへの共感があふれています。異彩の画家の色使いに音楽の動きを聴く、音楽評論家ならではの文章表現に酔いましょう。必見!