向田邦子愛読者の必読書
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向田邦子全集が発売された。彼女には、常に熱心な愛読者が生まれているようで、文庫本の増し刷りも定期的に行われている。「メルヘン誕生」は、無名の出版社から、異色の筆者によって発表された著作である。
筆者は長年週刊文春の名カラム「お言葉ですが・・」を書いて有名になったエッセイストで、中国文学が専門。三国志や水滸伝に関する著書も出版賞を獲得した名著だ。その著者が向田邦子について書いたこの本には、2つの特徴がある。1つは、向田邦子を作品によってのみ書き、個人的ゴシップの類には、全く興味を示さないという作品本位主義。2つめは、わざわざ本を書く以上は作品を高く評価していることはもちろんであるが、決して盲目的に愛しているわけではない。多くの傑作のほかに質の点でそれらに及ばない作品のあることも、実証的に指摘している。
これは、向田邦子の作品を裸にした本であって、邦子その人を裸にしようという興味本位の著作ではない。彼女と彼女の作品を愛する人のご一読をおすすめする。