国際関係「理論」に対するパースペクティブが得られる本
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米国流の定性的な国際関係「理論」を、リアリズムとリベラリズムを対抗軸として、周辺的な関連諸分野との関連性をバランスよくまとめたわが国では初めての「教科書」といえよう。
ともすれば、従来であれば本書の内容はわが国では軍事戦略論としてくくられていたかもしれないし、わが国では「リアリスト」はタカ派的な言論にバイアスがかかった活動をするか、タブーの中で黙殺されがちであったろうし、ミアシャイマーのような米国の有力なリアリズム学者の本もトンデモ本的な扱いで紹介されてきた。しかし、特に米国での議論としてはリアリズムとリベラリズムが相克しつつ、論争相手として相互依存の関係にあり、現実の政策判断の背後でも重要な役割を果たしてきたことが本書でよくわかった。
(我が国の「国際関係論」の従来のテキストでは様々な立場や考え方が相互排除的にコミュニケーション不能な状態に陥っているように見えるし、ただの時事評論の域を出ないものが大部分であるようにも見受けられる)
国際システム論や規範理論、コンストラクティビズムなどの関連分野についても簡潔にまとめられているだけではなく、上記の2つの主要理論との関係性も非常に視界よく描かれている。
本書の読後に「安全保障の国際政治学」(土山實男著、有斐閣)などに進むと、発展的に楽しむことができる。
他の章はともかく、第二章の内容にはかなりのバイアスを感じます。
★☆☆☆☆
この本は残念ながら第二章の「定性的研究への道案内」の内容にかなりバイアスが存在し、むしろ今後の日本における国際関係研究への悪影響が懸念されます。
そも、定量的研究への定性的立場からの批判はアメリカにおける前者の圧倒的な優越性を背景に行われたものであり、どちらかと言えば人事や出版、予算等の権益の奪い合いという生臭い論争です。アメリカでこそ、こうした運動は既存のバイアスを正すものとして意味をなすでしょうが、日本においては状況が全く正反対であることに注意が必要です。
日本ではむしろ圧倒的多数の研究者が「定性的な」研究手法にシンパシーを抱いており、定量的な研究手法を敵視する傾向があります。遺憾ながら日本における国際関係理論の研究書には定量的な観点から記述されたものが殆どないため、アメリカにおける方法論論争を日本独自の文脈を考慮せずに輸入してしまう本書の内容は、むしろ定量的な研究手法を全く知らないのにそれを「けしからん」と決めつけてしまう誤った風潮を作り出してしまいかねません。
巻末の参考文献一覧を見ればわかりますが、この本は『国際関係理論』等という標準的な題名にも係わらず、APSR, AJPS, JCR, IO, JPR, II等のアメリカ政治科学における標準的な学術誌の論文を方法論の議論を除き殆ど引用しておらず、またしていてもゲーム理論や統計を使用した論文の紹介はまずありません。本書は定性的研究への極めて強いバイアスを持つ内容であるにも係わらず、そのことを十分に自覚的に、読者に理解させる内容ではありません。
日本においてアメリカにおける定性的研究手法の「再評価」の意味を精確に理解するためには、まず定量的な研究手法の有効性を理解することこそ重要なのではないでしょうか。この本の読者はどうか、この本の内容が極めてバイアスの強いものであることを自覚しつつ、批判的に読んで頂きたいと思います。
国際関係理論
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国際関係論の理論集。リアリズム、リベラリズム、コンストラクティビズムといった
国際関係論における最も主要な理論に加えて、国際政治経済論、従属論と世界システ
ム論、規範理論、批判国際理論にも、それぞれ説明に一章が割かれている。
第一部では国際関係論研究の方法論について説明があり、実際に研究を始める際の良
い手引きとなる。特に第2章の「定性的研究方法への道案内」は、これから研究を始
めようとする人は必読。
国際関係理論についての理解が足りないと思う人にはお奨め。文献案内も充実してい
るので、理論についてより理解を深めたり、引用先を探したりするのにも適している。
国際政治理論の教科書
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日本ではあまり見られない国際政治理論を対象とした概説書である。
同書は、理論の主流であるリアリズムとリベラル学派だけでなく、構成主義学派や日本ではあまりなじみの無い規範理論や批判理論も扱っている。基本的には米国の理論中心の説明である。他のレビューの方もおっしゃっていることだが、英国学派や欧州大陸の思想を若干でも取り上げても良いのではないかと思った。
この書籍を読んで改めて思ったことは、現在、世界には数多くの理論・アプローチが存在すること、そして基本的にはそれらの理論がリアリズムを批判することで登場したと言うことである。これらが示すことは、リアリズムとそれぞれの理論の2項対立という関係であろう。しかし、ネオ・ネオ統合やウェントがリアリズムに歩み寄ったことは、少なくともそれぞれの理論のうち、3つの理論の統合の可能性を示しているのかもしれない。そう考えると、批判理論が今後1つの軸になっていくかもしれない。
ともわれ、本書の評価はともかくとしてあまり理論に詳しくない私としては、こう言った書籍が日本語で読めることを喜ばしいことだと感じている。
ようやく
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日本でも、国際関係・国際政治理論が体系的にまとめられた書籍がでました。うれしい限りです。
K・ウォルツやJ・ミアシャイマーといったネオリアリスト、A・ウェントやJ・ラギーといったコンストラクティヴィストの著書は、国際政治を見る際の重要な視点であるにも関わらず邦訳されてきませんでした。次第に邦訳の動きも出てきていますが、まだまだ遅れているのが実情です。わずかに、R・コヘインやJ・ナイらネオリベラル制度論者の業績が邦訳されていたくらいでしょう。
そういう中で、こういう体系書がでるのは本当にありがたいです。国際政治を学びはじめたばかりの人はもちろん、原著を読んだり、本格的に研究している人でも、理論の再整理やテキスト・クリティークができます。そうやって、理論の含意を再発見することもあると思います。
本書が先駆けとなって、日本でも国際政治理論研究が進む事を願います。