「『人間にとってよいことは、世界にとっても当然よいことだ』という生き方は間違いであることが明らかになった。私たちは生活様式を変え、『世界にとってよいことが、人間にとってよいことだ』という正反対の生き方をしなければならない」。著者は詩人ウェンデル・ベリーの言葉を引用し、我々の社会が掲げてきた「産業資本主義」からの脱却と、「ナチュラル・キャピタリズム(自然資本主義)」への転換を呼びかける。
ここでいう「自然資本」とは、水や鉱物、石油など人間が使用するすべての資源を指し、またサンゴ礁や熱帯雨林、草原などの生態系をも含む。自然資本は、肥沃な土壌や大気の循環など、人類の生命維持に必要不可欠な環境を提供してくれるものである。こうした自然資本の維持・供給と、人類が行う人工的な産業生産との依存関係を再認識し、その価値を十分考慮に入れた経済社会を目指すのがナチュラル・キャピタリズムなのだ。そして、著者はナチュラル・キャピタリズムと新しい産業システムの構築のために、「資源生産性の根本的改善」「バイオミミクリ(生物模倣)」「サービスとフローに基づく経済への移行」「自然資本への再投資」という4つの方向性を提案する。
たとえば資源生産性の根本的改善では、使用する原材料やエネルギーを減らし、得られる製品や仕事量が同じであることを目指す。また、土壌微生物の食物連鎖や窒素フローを管理し食物の収穫高を伸ばすなど、自然の穏やかな化学技術を学び、まねしようというのがバイオミミクリである。
さらに本書では、企業の具体的な取り組みを紹介しながら、こうしたナチュラル・キャピタリズムの実現が絵空事でなく、すでに現在進行形であることを示している。その筆頭に挙げられるのが、車体の軽量化による省資源化や燃費の向上、ハイブリッド方式電気自動車の開発などが進む自動車産業だ。加えて建築業界や不動産業界における事例も取り上げられている。また、こうした事例だけにとどまらず、「自然界の繊維」「生命を支える食糧」「水資源問題の解決策」の3章では、それぞれ森林と農地、水について生物学的観点から人類や産業とのかかわりを見つめ直している。自然と産業、人類の視点を軸に環境問題をとらえ、ナチュラル・キャピタリズムという方向性を示している。読みごたえのある1冊だ。(北国春魚)
エコノミーとエコロジーの融合
★★★★☆
かつて日本人はエコノミック・アニマルと呼ばれた。これには畏怖と共に、多分に蔑称の意味合いも含んでいた。
今、わたしたちはエコノミック・アニマルから、エコロジック・ピープル(こういう言葉があるのかどうかわかりませんが)への転換期を迎えていると思う。
本書が示すビジネスモデルが日本にそのままあてはまるかどうか、門外漢のわたしには疑問も残る。
けれども、すべての経済人がこれを読んでくれれば、世の中はずいぶん変わるような気がする。
分厚い本なので、とっつきにくい方には「エコロジカルな経済学」(倉阪秀史著・ちくま新書)をお薦めしたい。
エコロジーと資本主義の融合
★★★☆☆
起業家でもあるPaul Hawken氏によるエコロジーと資本主義を融合させようとする試み。生態学的足跡と人口増のトレンドから予想される生態系の危機と資源の希少化に対応するため、産業革命以来の産業資本主義経済から、生態系を含む資源を資本として認識する「自然資本主義」経済への転換を訴える。自然資本主義を啓蒙、促進するための具体的な施策、成功例を数多く提示:Feebates等税制を利用した資源の効率利用促進策、交通システムと都市計画の包括的な検討、サービスに注目したシステム全体の最適化、ライフサイクルコストの考え方、市場指向の問題解決など。省エネには上流(電源)での効率化より下流(家電)での節約の方が貴重であるロジック、遺伝子プールと環境変化への対応力の関係と単一作物に依存するリスク等の指摘も興味深い。エコロジーをミクロな節約やリサイクルだけでなく、マクロな視点から議論するのが新鮮に思えた。企業家らしく環境保護一辺倒にならずバランスの取れた持続可能な経済成長シナリオを説く。但し、大衆向け啓蒙書の域を出ず、学術レベルの理論や実証性を期待する読者には物足りないと思われる。もしエコロジカルで持続可能な経済発展が既存の技術で実現可能かつ経済的に合理的なのであれば、なぜ実現されていないのか(環境破壊を促進する一部税制や産業保護政策がなぜ終わらないのかを含め)、またどの様なプロセス、手法でそのようなパラダイムシフトが実現可能なのか、体系的な分析と包括的な解決策の提示がないのは残念。
Think Ecolo Act Econo
★★★★★
著者のひとりホーケン氏には数年前TOKYOでお目にかかった。
原著タイトル「Natural Capitalism~Creating The Next Industrial Revolution」
僕に言わせればそれはEvolutionといったほうが相応しい好著!
インパクトのある本だが、これで十分か?
★★★★★
副題が”Creating the Next Industrial Revolution”となっており、読む前からすごさを感じさせる本である。いままでただだと思って使い放題に使ってきた自然は、我々の経済活動や生活の欠かせない基盤となっており、今後は貴重な資本として扱わなければならないという主題を掲げ、4つの戦略(資源生産性の大幅向上、生物模倣、サービスとフローの経済、自然資本への投資)を提示している。さらには、数多くの成功例によってNatural Capitalismの有効性を裏付けている。今後の社会の方向性を示す本として、環境担当者のみならず、環境と調和した社会を考える者には誰にでもお薦めである。
非常にインパクトの強い本で、本書に書かれていることはぜひ推進されるべきと思うが、現状を鑑みて、持続可能な社会を構築するためにはそれだけで十分かどうか疑問が残る。例えば経済のグローバル化、競争原理、資本主義そのものの改革は不要なのか?Herman Daly著Steady-State Economicsのような経済の規模を維持する枠組みやRichard Douthwaite著The Ecology of Moneyに紹介されている貨幣システムの改革も必要なのではないかと思う。