二十世紀における学問的なカバラ研究の大家であったゲルショム・ショーレムは、「秘密教義」に引用されている自称古代文献がゾーハル等からの剽窃のつぎはぎにすぎないことを指摘し、神智学協会を「擬似宗教」と呼んでいます。(「ユダヤ神秘主義」邦訳:法政大学出版局)
また、神智学協会の影響の下に世界において拡散してきた「転生(リインカーネーション)」の観念は、ヒンズーや仏教の輪廻説や、ネオプラトニズムにおけるメタソーマトシスともまったく別のものです。
ルネ・ゲノンやその他の著者が指摘してきたことですが、ギリシアやインドの伝統的輪廻説には神智学的「霊的進化論」など当然ながら存在しません。
伝統的輪廻説においては、悪しき業をつめば下等な生存形態に生まれるのであって、輪廻は神智学協会が説くような「進化」過程ではまったくない。
これは19世紀末という神智学協会登場の時代背景を刻印された特殊な思想であって、これを伝統的東洋思想であるかのように言い広めるのは、まさに欺瞞というべきでしょう。
神智学協会の「転生」の教義が、仏教における輪廻とまったく違うものであることについては、Francis Story,The Buddhist Doctrine of Rebirth in Subhuman Realmsを参照。
神智学協会による仏教理解のハチャメチャさ加減については、John Myrdhin Reynoldsによるバルド・トドゥル英訳Self-Liberation(Snow Lion)p.71以下の付録が有益です。