句の作者は住宅顕信(すみたくけんしん)という珍しい名前の俳人。彼は浄土真宗本願寺派の僧侶だった。1961年岡山市に生まれ、1987年白血病で死去。享年25歳。短い句作人生を全速力で駆け抜けた。
種田山頭火や尾崎放哉の句を愛し師とした顕信は、5・7・5の定型や季語にしばられない、自由律俳句をつくった。発病してから逝去までのわずか2年数か月に詠まれた全281句から、51句が選ばれ本書に収められている。タイトルの「ずぶぬれて犬ころ」ももちろん彼の句。わずか9文字に込められた顕信のおののき。ページを開けば、ぶっきらぼうを装う、裸の心が詰まった短詩の数々が、防ぎようもなく直に読者の胸をたたく。
あけっぱなした窓が青空だ
初夏を大きくバッタがとんだ
若さとはこんな淋しい春なのか
点滴と白い月とがぶらさがっている夜
重い雲しょって行く所がない
病床にある彼の実体と生命豊かな自然との距離が
めまいように迫る、静謐な作品が並ぶ。
その中で時としてほとばしる無念さが、非常に哀れで悲しい。
一方で幸せを詠んだ句は輝くばかり、弾けるようだ。
かすかな光は彼にあふれている。
ブルーとピンクを基調とした松林氏の版画は、
句の世界に寄り添っていてとても良い。
印象はくるくると変わる。
若々しさとは、常に矛盾し続けることなのかと、
わが身を振り返って思ったりした。