学びある実用書には届かないものの、興味深い情報量は多い
★★★☆☆
P&Gでの勤務を含め同社を数十年にわたり追い続けてきたというだけに、この一冊に込められている情報は多い。P&Gという会社がいかにすごいか(そして著者がいかにP&Gが大好きか)、そのP&Gが直面した危機とそれを乗り越えたラフリー改革がなんであったのか、そして同社の現在の強みは何なのか、これらの情報が詰まっている一冊である。
トピックも、一般的なマーケティング論から外部技術の導入、人材育成論からリーダーシップ論まで多岐に亘っており、興味深い内容が多かった。消費者理解に関する誤解という一般的なマーケティング・トピックのみならず、イノベーションの限界を乗り越えるべく導入されたオープン・イノベーション戦略や、具体的に導入すべき技術の検索・選択方法等は参考になった(消費財業界でも製薬業界でも同様の流れが生じていることは興味深かった)。
しかしながら、情報量が多かっただけに残念に感じてしまったのが、まとまりの無さである。同じ章または項目であらゆることに話が振れている上(一般的なマーケティング論なのか、P&Gの改革についてなのか、P&Gのプラクティスについてなのかが整理なく混ざっている)、トピックのつなぎ目が明確でないため、目次を見直し論点を整理しながら読み進める必要があった。
もう一点残念だったのは、表層的な説明が散見される点。例えば「〜で成功する要素としては次の4点が重要である、特に最後の1点が重要である」と述べられていても、「なぜその4点なのか、なぜ最後の1点が重要なのか」が説明されていない等、このようなことが多い。これらが自明ではなかったり、根拠が提示されていないため、すっきりしないし学びがない。「〜をした、〜をした、成功した」というWHATは多く書かれている一方で、WHYやHOWについて深く掘り下げられていないことが多いため、豊富な事例が根源的な学びにつながりにくい(随分後の方で説明されていることもあるが、それでは疑問を残したまま読み進めなければならない)。
上記理由により、豊富な情報や事例には興味深い点も多かったが、その豊富なソースを学びある実用書に発展させるには一歩足りず、一冊の書物としては完成度が低いと感じてしまった。
P&G社内資料満載の、貴重な本
★★★★☆
現在のCEOアラン・ラフリーによるP&G再生のストーリーを、豊富な内部資料(の翻訳)で解説した、貴重な本。
全10章のうち、2〜4章をラフリーの改革の解説に充て、5章は製品開発、6章はマーケティングやブランディング、7章は新興市場への展開について、P&Gの考え方や勧め方を解説している。9章は日本のP&Gの近況についても掲載されている。
この本の価値は3つあると思う。
まず、(日本に駐在していた知日派の)ラフリーCEOのP&G改革の全体像や、例えば新興市場での戦略の転換等を俯瞰した数少ない本であるということ。
続いて、マーケティングだけ語られがちなP&Gについて、製品開発や、営業、生産、管理費の削減等の多方面から解説しており、また日本ではあまり知られていないアメリカでの数々の実験(ネット広告のみのブランド「リフレクト・ドットコム」や、口コミ組織「トレマー」など)にも触れていること。
最後に、例えば「ブランドマネージャーの8つの要件」など、明らかに内部資料を翻訳した内容が数多く出てくること。こんな本をよくP&GがOKしたな、というのは正直な驚き。
また、ただのP&Gの解説ではなく、後半には「花王は日本のP&Gを潰すチャンスが3回あった」等、筆者の視点も取り入れられていることも好感が持てる。
内容としては、情報豊富だし、日本では他に無い貴重な情報。P&Gに興味がある人も、エクセレント・カンパニーの経営に興味がある人にもお勧めできる良書。
ただ、ときどき明らかに変な翻訳があるのと、例えばP&Gで正式に外部向けに使用している「真実の瞬間」を「決着の瞬間」と訳していたりするので、星は4つのみ。
メガブランド戦略の新しい教科書
★★★★★
これまでマーケットインを信奉してきたが、近年では、上手くいかないと思い始めていた。
この本を読んで、P&Gが2000年から大きく変わったことが分かった。
徹底したコンシューマ−インに方向転換して、世界で成功している。
その中でも、消費者理解を中心に据えて、新興国市場での売り上げ成長を遂げた事実は意外だった。
また、利害が対立しているはずの巨大小売業とも、共通する顧客である消費者を共有して、共同作業が可能なことも分かった。
そうした意味で、メガブランド化を考える会社なら、最新のマーケティングを学ぶ教科書として、是非、読んだ方がいいと思う。
日本人のオジサンだけでは行き詰まる
★★★★★
日本企業の意思決定が60歳を過ぎた重役に委ねられている現実を批判し、同質化の対極にある現地の人、女性を積極的に幹部に登用しているP&Gの状況が紹介されていた。日本企業も製品開発の前に、まずは異種雇用を進めないと世界で勝負できないということが理解できた。現実を直視しながら日本企業にも発展のヒントを提示していると感じた。従って、社員の同質化の度合いが強い企業に勤めている人は是非この本を読んでみるべきと感じた。消費者の心を理解できる人を育成することの重要性も理解できた(例えとして、携帯電話の開発=消費者が使わない機能を次々と付与する無駄が紹介されていた)。
8割の女性消費者にターゲットを絞る
★★★★★
8割の消費アイテムの購入決定を行っている女性に具体的なマーケティングの実施内容が書かれているので大変参考になる。内容的にも、成功しているP&Gの実績を踏まえているだけに説得力がある。日本の事例が多く書かれているために、さらに参考になる。