原題はシャレだね。
★★★☆☆
スペイン岬の別荘で絞殺された男の死体がマントの下が裸であったという本書の特徴は、なぜ被害者は裸にされたのかという不可思議な状況設定にあり、前作「チャイナ橙」の「すべてがあべこべ」という状況に引き続き、この謎が解ければ犯人もわかるというパズル的な要素が強いという点で前作と趣を同じにしている。
しかし本書では、(これはネタバレにはならないと思うが)犯人の立場からすれば当然水着姿で犯行に及ぶべきところ、なぜか実際は誰が考えても不自然な姿で犯行に及んでいる。
この点エラリーは犯人が水着姿でなかったと論証するだけで、事前に犯行準備を行っていたはずの犯人がなぜ水着を用意しなかったのかについては一切説明していない。
また、「なぜ被害者は裸で殺されていたか。」の謎解きは一応論理的ではあるが、犯人の目的からすれば下着まで奪う必要はなかったはずで、それはおそらく「下着姿の男の死体が見つかった」では読者に与えるインパクトが弱いことから作者の都合で裸にしたのだろうが、犯人が水着姿ではなかったことと合わせて作者は犯人の行動論理を無視しており、また犯人がそのような不自然な行動をとったことに対する説明がなされていない本書は論理的な作品とはいえないと思う。
本書で唯一面白いと思ったのは、原題「THE SPANISH CAPE MYSTERY」の「CAPE」が、「岬」と「ケープ(マント)」をかけたシャレになっていることぐらいだった。
全裸にされたジゴロの謎
★★★★★
スペイン岬の別荘の海辺で、ジゴロの死体が発見される。
しかも、なぜか、全裸にケープをはおっただけの姿だった。
ジゴロは複数の不倫相手をゆすっており、
恐喝者の口封じが動機だと考えられた。
一方、別荘の主人の義弟が、ジゴロと
間違われ、誘拐されるという事件も起きる。
果たして、二つの事件に関連はあるのか?
そして、なぜ死体は裸となっていたのか?
海辺が犯行現場ということから、砂浜に残る足跡が重要なポイントとなります。
犯行後、潮がひいた砂浜に、海に向かった足跡を残せば、警察の嫌疑を外部に
向ける有力な傍証となるのに、なぜか犯人は、それを避ける行動をしています。
その意図とは?
「全裸の死体」と「足跡の不在」という二つの手がかりから、エラリーは犯人の
六つの条件を帰納的に導き出し、すべてに該当する、唯一の人物を指摘します。
古さを感じさせない!
★★★★☆
国名シリーズ第9弾の「スペイン岬の謎」
第9弾ということもあり、本当に「いい味」が出ててきた頃の作品。
国名シリーズ中では一番といっても過言ではないだろう。
エラリー・クイーンお得意の論理展開も抜群であり、最後まで納得のいく内容
パズル好きにはたまらないこと間違いなし!
これ程までに論理展開の素晴らしい同時代の推理作家はいただろうか?
ほぼ同時代に活躍したアガサクリスティ並の評価がないのは些か疑問である。
1935年の作品であるが、歴史的背景を気にせず、古さも感じずに読める。
むしろ、今のミステリー小説に勝るほどの鮮やかな推理だ☆
「どうしてジゴロの死体は素っ裸だったのか?」
という謎への答えも単純であるが、気持ちがいい
「読者への挑戦」もきちんと施してあるほど、遊び心満載だ。
タイトルにもしっかりと魔法のかけられた名作である。
これは当てられる!はず。
★★★★☆
国名シリーズの事実上最後の作品です。
例によって「読者への挑戦」が挿入されますが、本作ははっきりとした手がかりが読者の前に堂々と提示されているので、国名シリーズでは一番推理を立てやすいのではないでしょうか?僕も今作ではきちんと筋道立てて犯人を指摘できました!ので皆さんも是非挑戦してみてください。
蛇足ですが本書のメイントリック…というかメインロジック?が某テレビドラマで使われていましたね。
世界初の裸体男の死体
★★★★☆
国名シリーズ中の一作。冒頭で何気なく述べられる岬一帯の条例が最後に活きるというクィーン一流の精緻な構想が光る。しかも、殺されたのは"裸の男"。クィーン自身が「世界で初めての試み」と語る奇抜な設定。何のために男は裸の状態で殺されなければならなかったのか ? 直後、巨体の男が犯人として名乗りを上げるが、勿論真犯人ではない。
この後の情報収集方法が、家庭内の盗聴等に頼っている点が作品の迫力を弱めている恨みはあるものの、犯人逮捕の瞬間の驚き、犯人確定の決め手は一流である。国名シリーズの隠れた名作。